10回目のキスの仕方
 ぎし、と軋む音が、全神経を高ぶらせた。これから起こることは、自分が経験したことのないことだ。

「圭介…くん…。」
「怖い?」
「…怖く、ないですよ。圭介くんがしたいことを、…することに、怖いこと…ないです。」
「…負ける、美海には。」

 そっと重なった唇に、目を閉じた。優しく広がる甘さに全身の力が抜けていく。初めてのことで、不安は拭えないけれど、こうなるべくしてこうなったと思えるし、今こうして望まれていることがとても単純に嬉しい。真っ直ぐに愛を受けることに対して、真っ直ぐに愛を返したい。
 部屋の明かりを消して薄暗くなった室内に、甘ったるい音だけが充満する。キスだけで身体中が火照って、顔が熱い。

「んっ…。」
「苦しい?」
「…苦しく…ない、です…。」
「声が苦しそう、だから。」
「そんなの、圭介くんもですよ。」
「…同じなら、…大丈夫、か。」
「はいっ。」

 再び重なる唇に目をもう一度閉じる。首筋に当たる圭介の唇は、いつもの圭介を感じさせないものでこれからのことを予感させた。ここまで欲しいと思っていたのに、我慢してくれていたことが申し訳ないような、情けないような、それでいてやはり嬉しいような、複雑な気持ちだ。
 ゆっくりと脱がされる衣服に、心拍数がぐっと上がる。胸元に落ちてきたキスに身体が震えた。もう一度首筋に圭介の唇が移動し、余すところなく口付けられる。

「圭介くん。」
「ん?」

 ぐっと首を伸ばし、圭介の唇に自分の唇を重ねた。生まれて初めて、自分からキスをした。

「…っ…いきなり、…なに?」
「……したくなった、ので。」
「そんなに残ってない理性までぶっ飛ばす気なんだ、美海は。」
「そ、そんなこと…。」
「もう、お喋り禁止。余裕、ないし。」

 ぐっと重く覆いかぶさるその身体も、触れてくれる優しさも、そのどれもが嬉しくて涙が出る。

「…痛い?」
「…痛く、ない…です。幸せだなって…。」
「そんな可愛いこと、言わないで。…余計、大事にできなくなる。」
「これ以上ないってくらい…充分大事にしてもらっています、私。」

 指を絡めて視線を重ねれば、互いの余裕のなさは充分に伝わった。性急に重ねた唇が、高まりすぎた熱をさらに高めていく。絶頂を目指して。

「…美海。」
「はい。」
「…好き、だよ。」
「…はい。私も…大好きです。」

 あとは言葉にならない言葉を交わして、そのまままどろんでいった。
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