10回目のキスの仕方

一歩進むこと

* * *

「圭介くん!」
「ん?…って…わ!」

 全てを話し終わり、涙もどうにかなったところで美海は自室に戻った。抱き付きたい衝動が抑えきれなくて、圭介に思い切り抱き付いた。

「…ちゃんと話せたんだ。」
「はいっ!」
「良かったね。」
「はいっ!」

 ぎゅっと強く抱き付けば、圭介は優しく抱き返してくれることを知っている。ゆっくり背中に回った圭介の腕に甘えるように体重をかければ、ベッドに圭介を押し倒す形になってしまった。

「わ、ご、ごめんなさい!重すぎました。」
「いいよ。突然大胆でびっくりしたけど。」
「っ…そ、そういうつもりじゃ…。」
「ないんだよね。知ってる知ってる。」

 圭介は美海を片手で抱いたまま、ゆっくり身体を起こしてくれた。少しその胸から離れて顔を上げると、視線が真っ直ぐにぶつかった。

「…ありがとう、ございました。」
「何のお礼?」
「…私の背中を押してくれた…お礼です。」
「そういう顔が見れるなら、背中を押して良かったと思える。」

 不意に縮まった唇までの距離。目を閉じると、唇の感覚だけが妙に研ぎ澄まされた気になる。

「…りんご食べたの?」
「空人くんの真似ですね?」
「空人くんほどの可愛さは俺にはないけど、…こんな真っ赤な美海の顔を見てりんごって言えちゃう空人くんの語彙にはセンスを感じる。」
「…もう。お返しです。」

 ぐっと背筋を伸ばして、圭介の唇に自分の唇を重ねた。ほんの一瞬だけ。

「…不意打ち、…やめて…。」

 途端に弱くなる、貴重な圭介を見れると知って、時々挑戦したくなる悪戯心が湧く。こんな気持ちを、前の自分のままだったのならばきっと、一生もつことはできなかっただろう。
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