10回目のキスの仕方
 真っ赤な顔を押さえる圭介を見つめると、自然と優しい気持ちになれて、笑顔になっている自分には最近になって気付いた。そんな自分は嫌いじゃない。

「…圭介くん。」
「…なに?」

 美海はそっと、圭介の手を取った。ゆっくり力を込めてぎゅっと上から握る。

「こんな風に、大きな一歩を進むことは…多分ではなく絶対、一人ではできなかったと思うんです。なので、ありがとうございます。何度言っても足りないのはわかっています。でも、言わないともっと足りない。…だから言わせてください。ありがとうございます。」
「…美海のお母さんが言ってたことの意味がわかった。」
「え…?」
「…可愛くて…どうにかなりそう。」
「え…えっと…あの…何が…。」
「今の笑顔…。…こっちが苦しい。」

 手をすっと抜かれて、今度は逆に美海の手が圭介に取られた。左手の薬指に、そっと圭介の唇が落ちてきた。

「圭介くっ…。」
「指輪、買おうか。」
「え…?」
「ここに、指輪欲しいなって。」
「え…えぇ!?」

 さすがに左手の薬指への指輪が何を意味するかはわかっている。それを考えて、今度は美海の顔が沸騰した。

「でも今指輪ないし、だから約束だけ。そういう意味のキス。」
「…じゃあ私も、約束します。」

 そう言うと美海は圭介の左手を取って、その薬指にそっと口付けた。手にキスをしたことなど一度もなくて、緊張で身体が少しだけ震えた。

「指にキスって…緊張しますね。」
「…ちょっとわかる。」
「でも指輪、…嬉しいです。そういう恋人っぽいものに憧れがありましたから。」
「え、そうだったの?」
「お、女の子なら憧れると思いますが…。」
「じゃあ誕生日プレゼントとかにねだってくれれば考えたのに。」
「た、高いものだっていうのもわかってますし…そんなのねだれませんよ。」
「…もしかして、指輪俺が買うって言ったら怒るわけ?」
「だ、だめです!絶対割り勘です!」
「出た…。」
「出たって何ですか!」
「美海の謎の男気。」
「男気!?」
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