10回目のキスの仕方
「…今まで、ずっと…私は色々なものが怖かったんです。」
「うん。」

 熱い眼差しが注がれて、すぐに唇がまた重なりそうな距離で、そっと呟く。

「怖いけど、手を伸ばした先に、…圭介くんがいてくれました。」
「そうだね。」

 待てないとでも言いたげな唇が重なった。啄むように唇を楽しみ、離れる。

「…だから今、私の世界に怖いものは…ありません。色んなものがキラキラして見えます。色んなものを好きだと思える。…でも、やっぱり、たくさんの好きなものの中で一番好きなのは…圭介くんです。」
「…なにそれ。…昼間から襲いそうなんだけど。」
「…圭介くんからしてくれることは…襲うって言いません。」

 美海の方からゆっくり腕を伸ばし、抱き付いた。大好きな温もりと大好きな香りが全身を包む。大好きな腕が背中に回った。

 いつしか、世界は怖いものだと思うようになった。自分のことも信じきれなくて、誰かと人間関係を築くのは怖かった。まして恋愛なんてできないと思っていた。でも、それは違った。
 手を伸ばしたいと思わせてくれる人がいた。手を伸ばした先に、優しい手が待っていた。その手は何度も美海の背中を押し、抱きしめ、そして導いてくれた。
 たくさんのものを手に入れた。安心できる場所、好きだと思える心、家族、友達、恋人、素直になれる自分。あんなに息苦しかった世界は、今とても美しいと思える。

 明日、どんな言葉を彼にかけようか。
 明日、どんな服を着て彼に会おうか。
 明日、どんなキスをしてくれるのだろうか。

 そんなことを考えて嬉しくなって、笑顔になって。その先には笑顔が返ってくる。この一つ一つが愛しくて、抱きしめたい。

「…次はどんなキスがいい?」

 初めてキスの仕方を問われた。もう何度目かもわからないキス。ただ言えるのは、どのキスもとても好きだということだ。

「…圭介くんのキスなら、どんなキスでも…大好きです。」

 甘く重なる吐息の上に、唇が乗せられた。

「好きだよ、美海。」
「はいっ!…私も、大好き、です。」

*fin*

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