10回目のキスの仕方
* * *

 美海と圭介の左手の薬指に光るシンプルなシルバーのリング。それを見つめるとつい嬉しくなって、美海の頬はほころんだ。

「なに?」
「…嬉しいなって。これ。」

 先日の圭介の誕生日に二人で買ったものだった。二人でとは言っても、圭介の方がかなり多く出したのだが。

「…圭介くんの誕生日なのに大半を払わせてしまうなんて…申し訳ないです。」
「こういうのはいいの。その辺は全然甘え上手にならないな、美海。」
「そういうところで甘えたいとは思っていません!」
「そういうところでも甘やかしたいのが男の心情。」
「…で、でも、お返しと言ってはなんですが、…その分、バレンタインは頑張らせてもらいます!」
「誕生日当日も頑張ってくれたし、いいよ、そんなに頑張らなくても。」
「が、頑張らせてください!」
「…最近の美海はポジティブで、なんか俺が負けそう。意外と押しも強いし。」
「…押し、強いですか?」
「嫌って言ってるわけじゃない。…面白いなって。」
「面白い!?」
「表情がくるくる変わってる。…子供みたいで、面白い。」

 ふわりと圭介の手が美海の頬に触れた。それだけでとくんと、静かに鳴る心臓。どれだけ一緒に過ごしても、隣にいても、ドキドキする気持ちはなくなってくれない。こうしてお互いの家を行き来しても、圭介の香りに慣れても、ぐっと距離が縮まれば変わる空気に気持ちがふわふわする。

「…キス、していい?」
「…今、同じこと考えてました。」
「じゃあ…遠慮しない。」

 どちらからともなく顔を近付けて、唇を重ねた。重ねた回数はもう、何回になったのだろう。重ねるたびに好きの気持ちが溜まって、溢れて、止まらなくなる。
 唇を割って入ってきた熱に美海の身体から力が抜ける。それを感じた圭介の腕は美海の腰に優しく回った。蕩けるほどに甘く響く音に、熱が身体中を走る。それでも止まないキスに美海は身を委ねる。恥ずかしさもなくならないが、心地よさもなくならない。

「…まだ、頑張ってくれる?」
「…頑張ります。」

 決して美海に無理はさせない。それをわかっているから、こうして安心して身を委ねることができる。熱を交換してもし足りない。唇を重ねていない一瞬がもどかしいほどに、好きだと思う。

「圭介くん…。」
「なに?」

 離れていることがもどかしいのはお互い様だとわかるくらいに余裕のない息が漏れる。そんな中でもどうしても伝えたくて、美海はキスを止めた。
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