10回目のキスの仕方
「おー何の話?」
「何って恋バナ?」
「明季ちゃん!」

 割って入ってきたのは洋一だった。洋一は美海や明季と同じ科のムードメーカーである。女子に人気だが、彼女はいないらしいと聞いた。

「明季の話?それとも松下さん?」

 自分の名前も知られていたことに、美海は安堵した。もちろんここでも人見知りは存分に発揮されてしまうわけではあるが。(洋一の呼び方が明季、松下さんに分けられていることからも十分伝わる。)

「なんであたしよ?美海に決まってるでしょ。」
「おわーまじか!で、相手は?」
「明季ちゃんってば!ち、違うの…本当にそんなんじゃ…。」
「あ、てゆーか洋一に聞けば早かった。行動科学科2年の浅井って知ってる?」
「浅井…んーと、あぁ!浅井圭介。知ってる知ってる。松下さんの好きな人って浅井?」
「違います!もう明季ちゃん!」
「ごめんって、美海。好きな人じゃなくて、美海の恩人。」
「恩人?」
「酔ってふらふらの美海を家まで送り届けてくれたジェントルマンです。」
「まー俺も松下さんがふらふらだったら絶対送るけどね。」
「あんたに美海はやらないから!」
「ひっでー。これはあくまで善意で!」

 少し話題が逸れてくれたことに美海は肩をなでおろした。危うく圭介にまでまた迷惑をかけるところだった。

「でさー洋一。話を本題に戻すんだけど。」
「んー?」
「浅井っていい人?」
「どんな質問だよそれ。つーかもうすぐ来ると思うけど。」
「へっ!?」

 図書館のときのように素っ頓狂な声が出たのはまたしても美海だった。

「え、知らなかった?あいつ、無遅刻無欠席だと思うけど。あ、ほら。浅井ー!」

 洋一の大きな声に、気だるそうな顔を上げたのは紛れもなく圭介だった。同じ講義を取っているかもしれないと思ってはいたけれど、まさかこんな風に再会するなんて。
< 25 / 234 >

この作品をシェア

pagetop