10回目のキスの仕方
* * *

「じゃあ、お疲れ様。また。」
「は、はいっ!また。」

 圭介は次にも講義があるようで、それに向かった。美海の方は今日の講義が今ので終わりであるため、その背を見送った。明季はというと、美海の隣でにやついている。

「美海ちゃ~ん?なにやらいい雰囲気じゃないのよぉ~。」
「ち、違うよ!全然そんなんじゃ…。」
「とにかく、あたしと洋一は美海を生暖かく見守るからね!」
「生暖かくって!しかも越前さんも…。」
「洋一が飲み会企画するようにちゃんと言っておくから。」
「いっ、いいよ!私、お酒飲めないし。」
「そこ、ちゃんと浅井サン、押さえてたよね~…結構普通にイケメンだったし、美海も可愛いし、見た目的にもオッケーだと思うよ、ほんとに。」
「やめてよ明季ちゃん!ただでさえ話すの、いっぱいいっぱいなんだから!」

 美海の頬はまたしても熱くなる。明季が言うような関係に、圭介となりたいわけではない。そんな展開を望むなんて畏れ多すぎる。だから、今より少し上手に話せるようになれればそれでよい。これは本当に、本心だと言える。

「…今より、上手に話したいな。」
「おっ、珍しい。美海が積極的。」
「えっと、違うの。そういう…なんていうか、いい雰囲気とかそういう変な意味を混ぜないで、…ちゃんとお友達、みたいな関係になれたらなって。」
「…そっか。それもいいかもしれないね。ま、どっちにせよ、今よりも向上する必要はあるわけだ。」
「そう、だね…が、頑張る。」
「頑張れ、美海。」

 美海は頷いた。対人関係はいつも美海の課題であり、苦手なものだ。特に、男の人は。だが、美海の苦手なものを〝浅井圭介〟は克服させてくれるかもしれない。

「明季ちゃん、またね。」
「あれ、今日は図書館寄っていかないの?」
「うん。今日、バイトの面接だから。」
「あー今日か。頑張って~!」
「う、うん!緊張するけど…頑張る。」

 今日はアルバイトの面接の日だ。5時から、近所の本屋で面接がある。

「…一つ、新しいこと。」

 4月から、目まぐるしいくらいに新しいことだらけだ。ただ、それが億劫ではなく、今は少しだけ、嬉しい。
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