10回目のキスの仕方
「じゃあ、尚更ごめん。」

 圭介が深く頭を下げた。突然のことに慌てたのは美海だ。

「ど、どうして浅井さんが…。」
「苦手なのに挑戦するってことでしょ?そういうの、すぐできないから、自分は。だから、そういうことしようとしている人にかける言葉として正しくなかった。だからごめん。」
「そんな…わ、私が頑張るだけで、浅井さんには不快感を与えてしまうかも…。」
「今までも松下さんと話してて、不快感を抱いたことは一度もないから大丈夫。むしろ松下さんの方が不快感あるんじゃないの?不快感というか、苦手意識というか。」
「そ、そんなのありません!」

 思わず大きな声になった。しかし、ここは声を大にして否定しておかなくてはならない。

「…浅井さんは優しい、です。だから苦手じゃ、ないです。」
「…優しくないよ。言葉足らずで松下さんを泣かせたし。」
「わ、私の考えすぎです、いつも!」
「考えすぎなんだ。」
「はいっ!これは自信をもって言えます。」
「…そっか。」
「はいっ!」

 気が付けば、圭介の顔も美海の顔も少しだけ笑顔になっていた。

「和解?っていうのかわからないけど、でも、ちょっとはわかった気がする。松下さんのこと。」
「え?」
「俺の言ったことで傷ついたら言って。そしたら直せるから。」
「直すだなんてそんな…私の方にも言ってください。直した方がいいところばっかりで…。」
「そんなことないと思うけど。」
「…え…?」

 美海は小さく首を傾げた。自分の嫌なところばかりが目についてしまう美海にとっては、そんなに肯定的な言葉を真っ直ぐに受け取れない。

「気持ちがちゃんと表情に出てる。それって長所じゃん?」
「…っ、それ、…どうなんですかね?」
「え、長所だと思うんだけど。」
 
 あくまで真顔でそう言う圭介に美海が笑顔になった。圭介が自分のそういう側面を長所だと言ってくれるのならば、本当に長所のように思えてしまうから不思議だ。そして、長所だと思えれば少しだけ、自分を好きになれそうな気がする。

「…こんなところで立ち話も変だし、帰ろう。」
「ごめんなさい!帰りましょう。」

 ここからは少し早まった歩調で、それでいて美海に合わせられたスピードで午後10時半の道を歩いた。美海はいつもよりも少し、話すのが上手になった気がしていた。
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