10回目のキスの仕方
「お、酒があるじゃん。」
「甘いの苦手でしょ。」
「可愛い女の子がいれば何でも飲めます!」
「お願いだからこれ以上バカを晒すのやめて。私の品位と地位に関わる。」

 大倉はニコニコと美海を見つめている。美海はどうしたらよいのかわからなくなり、視線を泳がせた。

「えーっと…お名前は。」
「ナンパしないで。うちの可愛い子に。」
「なんだよーヤキモチ?」
「酔っぱらいのバカはこれだから。」
「酔ってないよ。それにナンパじゃないから。単純に名前を知らずに話すのもなって思ったから。」
「…あの…松下美海と言います。すみません、こんな時間に店長の家にお邪魔していて。本当に私…あの、帰りま…。」
「いいのいいの!美海ちゃんのことは最初から泊める気だったから!むしろこいつがおかしい。今すぐタクシーでもつかまえて帰れ。」
「ひどーい。ねー、美海ちゃん?」
「えっとあの…。」
「美海ちゃん困らせたら本気でこの家から出すからね。」
「ワカリマシタ…。」

 大倉はとうとう口をつぐんだ。そして福島から渡された缶チューハイを開けた。ぷしゅっという音が聞こえたと思ったら、今度は大倉の喉を通る水分の音が聞こえてきた。

「邪魔が入ったわー。いい話してたのにねぇ。」
「い、いい話でも…ないかもしれませんが…。」
「え、いい話って何?]
「…あんたの前ではしたくない。」
「えーなんだよー恋愛関係の話なら俺も男側から参戦できるけど?」
「じゃあ聞くけど好きな女の子に告白して振られたら、どのくらい傷つくもんなのよ。」

 いきなり、かなり核心を突く質問に、美海の喉の奥がきゅっと締まった。

「うーむ難しいけど、…男は意外とガラスのハートよ?女の子よりも。」
「…うむ。興味深い答えだな。採用。」
「っしゃ!あ、美海ちゃんも飲んで飲んで。」
「あ、えっと…はい…。」

 注がれたチューハイを勢いで飲み干す。頬が熱くなってきた。

「美海ちゃん、ペース大丈夫?」
「…ふぁい…。大丈夫だと…思います…。」
「お酒弱いんだー。そういうとこ見せられたらちょっとたまんないかも。」
「浅井さんは知ってるの?」
「…はい。最初からご迷惑を…お掛け…していますので…。」
「迷惑じゃないと思うけど。」
「え?」

 突然トーンが落ちて、真面目な表情に変わった大倉を、美海は見つめた。
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