レオニスの泪

「どう考えれば良いの?!やっぱり無理ってどういうこと!?」



マシンガンのように憤りの言葉を発砲していく女。



ーやっぱ無理って何だろう、別れ話っぽいかな。




私は完全に他人事で、面白半分に聞き耳を立てながら、蚊に食われないかということの方に思いが集中していた。




相手の男の声が、聞こえるまでは。




「五月蝿いね。」


「!なっ!!」


「最初から無理っぽかったけど、纏わり付くから仕方なく一緒に帰っただけ。ただの勘違い。逆に迷惑なんだけど。」



冷た過ぎる言葉に、さっきまで喚き散らしていた女が、完全に言葉を失った。



私はといえば、嫌な汗が背中を伝う。


蚊に向けられていた意識は、あっという間に入れ替わってしまっていた。




「話は終わり。もう2度と会うことはないと思うのでさようなら。お気を付けて。」



遠退く足音とは反対に、私の心臓の音はどんどんと大きくなっている。





< 79 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop