レオニスの泪
そろそろと顔を出して確認する勇気は出なかった。



ー今の、声って…


置いていかれた方の女は、怒りと屈辱で肩をわなわなと震わせているだろうことは、想像に難くない。


その顔も、真っ赤に染まっているに違いない。


私は、彼女に気づかれないように、反対側から公園をそっと後にした。



男の帰った方角は、自分とは真逆だ。

後を追うなんて気持ちは更々ないけれど。

ちょっと、いやかなり、動揺していた。


誰も居ない、車も通らないアスファルトの道路を、速足で歩く。


さっきの声と、先日の声とが、記憶から引っ張り出されて、照合される。



同一人物なんじゃないか、と。



ーいやいや、声が似ているっていう偶然はあるだろうし、他人の空似かもしれない。だって、そうだ。どう考えてもあんな物言いをするような人には見えなかった。



懸命に否定説を唱えた。

気づかない内に競歩かと言うくらい速度が上がる。
< 80 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop