レオニスの泪

「あぁっと、んん…いけませんね、なんかちょっと風邪気味で」


非常に苦しいとわかっていながら、無言では居られなかった。


勿論、この相手がはぐらかされる訳もなく。


カルテが捲られる音がした。


マウスがカチカチと何度か鳴った。




鉛を飲み込んだかのような、ずっしりとした胸のつかえ。



文字を追う神成の目。


長く感じる時の流れと、沈黙。




「…原因はそれ?」



やがて、吐かれた溜息と問いかけ。



「え?」



神成はカルテから顔を上げて、私を見つめている。



「昨日の祈さんの散歩の途中に、僕らしき人に会った。それが態度の変化の原因?」




「…はぁ、、まぁ…」



引き攣った笑顔で、曖昧に頷く。




「それで?僕は何をしていたの?祈さんの気分を害するようなことをしたのかな?」



完全に他人事な神成の物言いに、若干首を傾げつつ。



「えと…女の人に、頬をビンタされてて、、文句もばぁーって言われてて、そしたら、し、神成先生は物凄く人でなしのような言葉を吐いてですね、、どっかに帰っちゃいました。」



何故だか言ってるこっちが恥ずかしくなってくる。
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