幕末オオカミ 第三部 夢想散華編


俺はゆっくりと、体を起こす。


支えてくれていた木の根が、ぎしぎしと音を立てた。


「あれこれ考えるのはやめた。土方さんの元へ行く」


「うえっ?いきなり?」


「ああ、ごめんな。いつも迷惑かけて……。ついてきてくれるか?」


じっと見つめると、楓はぼーっとしていたような顔をした。


けど俺の言葉の意味がわかると、勢いよく首を縦に振った。


「うん!もちろん!」


尻尾を振る犬のように、赤く染めた頬で俺の腕にまとわりつく楓。


きっとずっと、会津にいる仲間たちのことが心配だったんだろう。


「そういう総司が好き。いじけてふて寝してる総司より、全然好き!」


ん……?

もしかして、誰より俺のことを心配してたのか?


「……やっべ」


「ん?」


「あーあ、なんか奇跡が起こって体治らねえかなあ……こんなんじゃ、なんもできねえ……」


押し倒すなら邪魔者がいない今だろうけど、無理するとうっかり死にそうだしな。


「??んー、そうね、体治るといいねえ」


こいつ、全然わかってねえ。

ま、いいか。

俺はそいうお前が、好きだから。


「ありがとな」


そっと抱きしめると、楓の体から花の香りがしたような気がした。


きっとこれは、夢の香りだ。


この花が俺のそばにある限り、俺は俺として生きていける。


生きていこう。


< 179 / 365 >

この作品をシェア

pagetop