幕末オオカミ 第三部 夢想散華編


甲板で潮風に吹かれていると、後ろから足音が聞こえた。


「大丈夫か?こんなに船に弱いとはな」

「総司……あたしもまさか、自分がこんな風だと思わなかったよ」


総司はあたしの冷えた頬に手のひらを当てる。


「あまり体を冷やさない方がいい」


たしかに1月の海風は、体中を刺すように冷たい。

総司はあたしの体にはおおきな自分の羽織を、肩からかけてくれた。


「ありがとう……」


お礼を言うと、総司は口元だけで笑った。


先の戦でぼろ負けした精神的疲労と肉体的疲労に加え、総司はもうひとつ問題を抱えていた。

慶喜公が江戸に逃げ帰ってしまったことに、もののけたちが激怒してしまったのだ。


『なんということだ。やはり人間など信用できない』

『頭領、早く完全な狼として、戻ってきてください』

『人間同士の戦が終ったとき、弱り果てた彼らを滅ぼし、この国をもののけのものにしましょう』


なんて、過激なもののけたちが言いだしてしまったのだ。

その場は銀月さんがなんとかおさめてくれたけど……。


『頭領、もう旧幕府軍に勝利の見込みはございませぬ。大将があれでは……。
この戦で無駄死にしてはいけません。もののけに立ち戻り、山奥で静かに過ごされてはいかがでしょうか』


と、彼も旧幕府軍と協力して戦うことに、早くも限界を感じてしまったみたい。


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