幕末オオカミ 第三部 夢想散華編


一瞬ムカッとしたけれど、上様のしゅんとした様子を見ていたら、そんな気持ちはすぐにしぼんでしまった。


きっと上様はもうすべてをあきらめてしまったから、何もいらないと思っているんだろう。


「あなたがあきらめても、戦いは続くでしょう。
せめて忘れないでいてください。徳川のために、戦う者たちのことを」


総司はそれだけ言うと、一礼して立ち上がる。

あたしたちは成果をあげられないまま、そっと寺をあとにした。


「局長、がっかりするだろうなあ……」


大将がやる気がないんじゃ、こっちもしゅんとしちゃうよ……。


「でも、あの人はきっとあきらめない。俺たちもな」


総司はきっぱりと言った。


あたしたちの置かれている状況は、決して優勢とは言えない。

けれど、まだ希望が全てなくなったわけじゃないはずだから。


「まだ、希望はあるはずだ。俺たちが、この刀を捨てずにいる限り」


総司はそう言って、ぎゅっと刀の柄をにぎった。



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