僕は悪にでもなる
廃人
それから東京に来てどれほどたつだろう。
大きな希望とともにここにきたはずが、、、
はじめてここの地を踏んだ時の希望や夢、自分への期待
なんというか、命を感じていた。

そびえたつビル、輝くネオン、無限に感じる可能性、イキイキと街をあるく人達。
今はもう何を見ても悲しく見える。

くさい空気、電車に詰められ、押し込まれ運ばれる社畜達。
心なき人々が集団で横断歩道の前でつったている。

生きているのか死んでいるのかわからない目をして
次から次へと人とすれ違う。

俺は悪に育ち、悪にうもれ、悪に腐り、そして夢を見て悪と戦い
しゃばに出た。
そして東京に来てやっと、やっと夢というものを感じた。
やっとやっと悪から離れ虹美と出会い、愛というものを感じた。
ようやく人間らしい人生がはじまったと思っていたそしてそれがずっとずっと続くものだと思っていた。

でもふたを開けてみればまた悪に追われ、憎しみに埋もれてしまった。
悪や憎しみを感じている自分にあきれ、俺の心に悪や憎しみは消えた。
その瞬間俺の心の中はなんにもなくてってしまっていた。

夢や、希望はすでに悪や憎しみに食われなくなっていた。
目の前にある愛も邪魔くさく感じるようになっていた。

何度も何度も襲撃のおきる俺は仕事を首になりずっと家にこもるようになっていた。
何をすることもなく、何を考えるのでもなく、ただ横になって空を見上げている。

「またあいかわらず、下界にはこんな人間がいるってのに。空は変わらない。」

何をすれば俺は生き返るのか。
何をすれば俺は興奮するのか。
何をすれば俺は楽しくなるのか。
なんにもない。
この世界にはなんにもない。
あってももう俺には感じられない。
すでにこの時命を絶つことを静かに考えていた。

今の俺は、憎いしみすら感じられなくなっていた。
悪に追われ、憎しみに埋もれていた時の方が
まだ生きていた。
憎しみという感情が魂を体を思考を動かしていた。
あの時の方がまだ楽だったかもしれない。
当時地獄と感じていた少年院生活。
今思うとあの時の方が楽だ。
戦いの果てに希望があった。

今は俺には、戦う相手すらいない。
いや、戦う気力すらない。

人は何もしなければ悲しいずっと悲しい
ゆいつの対抗勢力は希望と愛

でもそんな腐った俺でも虹美はかわらず笑顔でご飯を作り、仕事にいき、
家事をして、生き返る俺を焦ることも、せかすこともせずに淡々と
愛をそそいでくる。

今の俺には重たかった。
恥ずかしさも感じていた。
でもいくらそう思っても魂が生き返らない。
なぜかわからない。悪や憎しみが無にすり替わった瞬間に何にもなくなってしまったのだから。

毎日、逃げるように眠る。
このまま死んでくれと思いながら。
寝ると再び悪夢に襲われ、おきれば絶望。
もう目の前に愛は邪魔でしょうがなく、重たすぎて逃げ出したかった。
でも逃げる場所もなく、また眠りに着く。悪夢を見てはおきてまた絶望にさらされる。

この愛にこたえなければならないのに。夢や希望にむかって走りたいのに
どうにもできない。このまま消えてしまいたかった。

そんな日々を繰り返していたがなんとか体を起こし、
悪夢と絶望の繰り返す部屋からにげるように。
部屋をでた。
ぼーと。ぼーと。散歩をする。
気分が変わることを期待して前へ前へと進む。

ふと気がつくと桜公園の前を通っていた。
俺はたちより、まだ咲かない桜の木を眺めていつものベンチに腰をかけた。
子供が遊んでいる。
楽しそうに、輝いている。
優しく見守る母親たちは幸せそうに優しさにあふれている。

腐った俺についた虹美はあの母親たちのようにもさせられない。

もうそんなきれいのものさえ見るのが苦痛になり、公園を逃げるように立ち去った。

どうにかしたい。こんな自分を。どうにかした。
起こしたい。心を起こしたい。
強く強く願う心がうねりだす。
そして俺はそのまま職案にむかっていた。

職案につき順番を待ちながら仕事を求めてきている人たちを眺めていた。

どうして人は生きるのか。
どうして人は働き、労働を求めているのか。
何が楽しくて、何が動かしているの。

素朴に感じた疑問。

そして俺はなんでここにいる。
さっきうねった願う心は幻のようにすでに消えてなくなっていた。
やっぱり俺は生き返らない。
願っても願ってもすぐに消える。
俺はもう死んだんだ。

そう思って順番を待つことなく職案をでた。

ふらふらと。ふらふらと。
どれだけ歩いただろう。止まったら消えてなくなりそうで歩き続ける。

気付けば日が暮れていた。
やっと疲れた体に気付き、歩道にあるベンチに腰をかける。
目の前には永遠と続く毒を吐く排気音と地獄へ向かう道で順番を待つテールランプ。

輝くネオンの光は地獄の前のふざけた演出。

たまらなく怖くなり俺は立ち上がり飲み屋へ向かった。
飲んで飲んで飲んで。
恥ずかしいけれど、悲しいけれど怖くて飲まずにいられない。
虹美の金で飲んで飲んで飲んで。

クラブに行っても離しかけてくる女は邪魔くさく。
風俗に行っても興奮しない。
途中でやめ、服を着て外に飛び出した。

周りには酔っ払いふらふらと臭い息を吐き、汚い笑顔でねえちゃんにいちゃつくおっさん。
地獄へいかないよう、その手前にあるこの快楽の街で金で買って、生きている。

「あー。よく若い時あいつらをおそったなあ。」

今、俺は同じことをしていた。
しかもその上にその快楽さえ感じられない俺。
地獄一歩手前で生きているあのおっさん達より俺は腐ってんだ。
もう地獄に行くしかないな。この世界ではもういられない。
そう思いながら襲撃を受け続けた場所に無意識に向かっていた。
そして男達にに囲まれた。
もう俺は恐れも憎しみも感じない。
このまま、今、ここで、この場所で地獄へ連れて行ってくれる。
こいつらが。

もうここから一歩も進ままなくていい。
もうここから先をいかなくていい。

身をまかせて殴られる。
一切の抵抗もせず、いつも気にかけていた足元も
ふらふらと自然にまかせて無防備に倒れては蹴られる。
起こされて殴られ、ふらふらと力なき足元がふらふらと。
自然にゆだねて倒れそうになる。そこからまたこぶしが飛んでくる。
腹を殴られると、思うがままに滝のように血の混じった酒が口から流れる。
無理やり流し込んだ酒が。
ここに留まろうとだましにだましに飲んだ酒が。
好きなように流れていく。
毒を体内からだしているようで
気持ちよかった。

腐った血とともに流れていく。

全部出たらもう俺はここで終わりに出来る。
もう息をしなくても、もう苦しみも悲しみも憎しみもない世界へ行ける。
もうこれ以上歩まなくてもいい。
殴られて殴られて殴られて。

倒れこんだ俺。薄くなった意識。でもまだ俺は臭い息をしている。
腐った心臓の音が鳴っている。
「はやく殺せ」
血の糸を引きながら口を動かした。

「もういい。このへんで。いくぞ」
そう言って鉄砲玉が去っていく。

「まってくれー。殺してくれよ。まだ生きろってのか。こんなにもこんなにも
しておいて。」
小さく声を出す。

まだこんな状態で前へ進めってのか。込み上げてきた感情が、願いが。
それは死にたいという願望。

「殺せー!殺せー!」
去っていくやつらが見えなくなっても何度も何度も叫んだ。
意識が飛ぶまで何度も何度も。

うっすらと見える星空。
相変わらず馬鹿にしている、変わらず綺麗な星。

「まだ、生きろっていうのかーーー。殺せー。死なせろーーー」
星にむかって初めて吠えた。怒りを感じた。
意識が飛ぶまで何度も何度も。

そのまま俺は眠った。

目を覚ました時には青くどこまでも澄んだ青空。

そんな綺麗な青空さえ生き地獄の始まりに見える。

「もうこんな空の下でいきたくない。」
初めて見上げる空に絶望を感じた。命の果てを感じた。

ふらふらと立ちあがり、家に向かって歩く。
いい加減にしてくれよ。
そう呟いて。

馬鹿にする青空の下を。

家に着くと変わらず淡々とそそぐ愛が。
机の上にきらいに色どる料理。

こんな俺のために。
飾られた写真に写る綺麗な虹美の笑顔。
もう俺には抱えきれない。その綺麗な笑顔に答えられない。
膝をついて、悔しくて、情けなくて泣いた。
憤りを感じ、爆発した感情の先に生まれた決意は死だった。

無になった俺は天井から縄をたらし、
机の上に登り、縄に首をかける。
机の端に立つこの足で蹴り横にずらせば、もう終わり。
縄を握る手に力が入る。

目をつぶり、心が静かになっていく。
ここで終わりにしよう。さっきまでたまらない悔しさや憤りを感じていたが
すっかりと消えてなくなり、無になっていた。
暴れた感情も静まり返り、机を蹴り飛ばそうとした時

聞いたことのある音色が聞こえてきた。
そして美しく綺麗な歌声が聞こえ、俺の体にしみわたり
心をおこした。
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