僕は悪にでもなる
この日大井を殺すと決めていた。
あいつを殺して、今日、命が終わる。

顔色が悪く、震えている。

仕事は休んだ。
虹美も様子のおかしい、俺のことを心配して突然休みをとった。

言葉なく台所に立ち虹美は朝食の支度をしている。

深い深い言葉なき愛情が胸に突き刺さる。

ずっと忘れない。俺の腐った人生に唯一咲いた一輪の花。

愛したくっきりとした目
すーと高く延びた鼻
小さな口

気高く美しい声
優しい思い
伝わる儚さ

そこにいるだけで、そこにいるだけで
愛おしい

心から愛した女

この部屋で過ごした日々

重なり合った肌と肌

数々の想いで。

永遠を誓った愛

夢見た将来。


叶えてやれない。。。
でももう愛する人へできることはこれしかない。

雪美と俺の分まで生きてほしい。
悪なき人生を歩み、
将来虹美がいつか必ずまた大きな愛に巡り合い、
母親になるんだ。

ずっとずっと見守ってやれる。

深い深い愛情と共に強く決意を固め立ちあがった。

「ちょっとコーヒーを買ってくる。」

わからないようにペンをとり、部屋をでて
ポストに入ったチラシを手に
桜公園にむかった。
手が震えて掴んだ紙が小刻みに音をたてる。

公園について自分の人生を考えた。

ここで第2の人生を心に決めた。
幼きころ見た悪夢
出会ってしまった悪
悪にむしばばれ廃人化したあの頃
薬に逃げた弱った自分
復讐に目覚めた命
少年院での厳しくつらい毎日と
直樹との出会い、おばちゃんとの出会い
院生への恨みと求めそして恐れた愛
2度目の東京、おばちゃんと見たここの景色
直樹との再会
充実した日々
大井から向けられた悪の矢
巡り合った愛
その愛をまた悪にむしばばれて、廃人になる
深い深い虹美の愛に救われたこの命
虹美の美しい歌声
やり直した日々、虹美と愛を育んだ日々。
また向けられた悪の矢
雪美の悲劇と知った大井の存在。事実。
そして雪美の死。

俺の人生にしがみついた悪に、今日この日ついに詰められた。

最後に最後に、強く強く
虹美の未来を願い、静かに遺書をしたため始める。
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