僕は悪にでもなる
「とりあえず1ヵ月俺はたえる。でも到底あいつを信じることはできない。
誓約書を作り書面にサインさせる。内容は全て正直に。
条件は俺があいつの送る鉄砲玉からの暴行に耐える。そのかわり1ヵ月後俺が、反抗や逃走しないかぎり、借金をすべて返してもらう。もし署名がとれたら契約書の内容が内容だから約束は守るだろう。こんな契約書をもとに訴訟なんぞおこしたらいろんな罪にとらわれるから。それにあいつなら借金の返済など確かに切符をきられるようなものだろう。これが一番いい方法だ。もう誰にも憎しみや恨みは生まれない。たった1ヵ月俺が耐えればいいだけだ。もし、あいつが署名を拒んだ時は、雪美。覚悟してくれ。
あいつを警察に突き出す。借金は直樹と俺、
で一生かけても返してやる。俺はもうただ単純にあいつを殺すなどという突発的な行動はしない。一番いいのはあいつの署名さえとれればもう誰にも憎しみを与えなくて済む。できることならここで止めたい。
憎しみは愛を食いつぶし、復讐は復讐を生み、永遠になくならない。直樹も虹美も巻き込んではいけない。それに俺もあいつを憎まない。やっと手入れた日々を憎しみなんかにもう食われたくないんだ。」

「だめよ。1ヵ月も幸一君。死んじゃうわ。私が事故に見せかけて死ぬわ。保険金でなんとか返すから。」

「死んだら何になるんだ。何もならない。ただ直樹や虹美に悲しみを与える。
その前にお前が死んだら、俺が暴行を受けずに死んだら。あいつにとっては何も得たことにならない。あいつの目的は俺だ。お前が死んだら次は虹美や直樹、空美まで復讐の矢がむき、俺に行き地獄を見せる。何もならない」

雪美は何も言い返せない。悔しくて悔しくてあの時の母のように唇をちぎれんばかりと噛みだらだらとだらだらと血を流している。

俺はそれから雪美が死なないように、これ以上、悪を広めないように
1ヵ月の暴行を絶えた。

しかしそんな思いは無残に崩れ落ちた。

静かに一報が入った。
高速道路から高架下に落ちて原型を失った車からでてきた遺体は雪美だった。

死亡保険を目当てに事故に見せかけて自ら死を選んだ。
なぜ死んだ。
深い深い悲しみ

俺しか知らない事実。
泣け崩れる直樹と虹美。
事故死であることにすることしかできず、その事実を飲みこんだ。

でも、大井は満足していない
目当ては自分
暴行がなくなる

大井の暴行などどうでもいい
雪美への暴行はどうせ、立証できない

あいつこを殺して、俺が死ねばいい。他に矢が向かないように。これ以上悪に苦しまないために。

殺すしかない。

虹美や直樹、みんなに、哀しみが続かぬよう怒りと悔みを押し殺し
しばらく時を過ごした。

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