僕は悪にでもなる
またおやじから、奪った金で、店をまわる。
そんな日々を繰り返した。
すると、ようやくまともな情報を得た。
もうすでにほとんどの夜店にはまわっていて、その店に来たのは3度目だった。

僕の執念からか、同情からかわからないけど、一度聞いたことのあるホステスからだった。
「あくまでも噂だよ。アンジュっていう風俗をしている人かも。」
下をむいて、つぶやいた。
「誰にもいわないでね。他にもいろんなお店を経営しているけど、風俗以外は言えないわ。
同業社だから。その人専用の風俗ビルって言われてるビルがあるの。何も店が入っていなくて入り口はいつもシャッターが閉まっているの。そのビルの持ち主がその人。」
「ありがとう。」
そう言って僕は、、立ちあがった。
「何する気なの?」
「わからない。会って決める。この目であいつを見て決める」
そう言って店をでた。

無料案内所にいきアンジュという店の場所を聞き、店に向かった。
少し酔いがまわったか。少し足がふらつく。
でも、意識は異常なほどにはっきりとしている。

店につき、とりあえず適当に指名し、部屋に案内をされた。
「こんにちは。こちらにどうぞ。」
僕は、ベットの上に座った。
「どんなのがいい?」
「何もしなくていい。ここのオーナーの居所を教えてくれ。」
「店長なら知っているけど、オーナーはわからないわ。店長に聞いてみようか?」
店長が言うわけない。どこの者かわからないものに。
「いや、いい。」
答えた女の目に嘘はない。なんなく、わかった。

そして俺は部屋をでた。
「ちょっとまって!」
女が言うが扉を閉めて、フロントに向かった。
「チェンジしてくれ。金は払う」
「え、えー。わかりました。いいですか?」
「はい。今空いている子は?」
戸惑いながらもパネルを用意した。
「この子でお願いします。」
金を払い、待合室で待つ。
そしてまた部屋に案内され、同じことを繰り返す。
また金を払って違う女を指名する。
待合室で次を座っていると、どうもボーイの動きがあわただしく、様子が変わってきた。

「あー。これじゃあースカウトに思われてもしょうがないな。次が最後のチャンスだな。」
僕は、心の中でつぶやく。
完全に初めとは違う口調で、表情で、ボーイが部屋に案内する。
階段を折り返すと、複数の人間が階段の一段目を踏んだ音がかすかにする。
「こりゃあ。部屋にはいったら、完全包囲だな。」
僕は、階段を折り返すたびに気付かれないように、男達ものぼってくる。
部屋について中に入った。

「どうぞ。はじめまして、ゆりあです。」
一番若い女だった。
ベットに座り、女が話しかけてくる。
「今日は一人で来たのですか?」
きれいな目をしている。
「はい。一人できました。」
僕は、オーナーのことを聞くことを忘れ、扉の方をちらちらと
どう逃げるか考えていた。
「どうしたの?緊張しているのですか?」
そう話しかけてくる。
上品な声で。
「いや。大丈夫です」
と女の方を見ると、
「リラックスしてください」と言いながら僕の服を脱がそうと手が伸びた。
とっさに彼女の手をおさえた。
すると、彼女の手首に縄で縛られた跡が。
「これは?」
そう尋ねると、今まで淡々と話、平然としていた女が明らかに動揺した。
「これは、ちょっと変わったお客様がいてね」
声が震えている。きれいな目も悲しい目にすり替わった。
「ここは、そういうお店じゃないですよね。」
僕が質問する。
「そうなんです。なのに、本当に困るんですけどね。。。」
“あんた、オーナー知っているな。”と聞きたかったが、
扉の向こうでスタッフが聞いているのに気づいていたから、
言わなかった。
「給料いくらもらっているの?」
「それは言えないですよ。」
「うちにくれば、あんたの希望を全部叶えるし、こんなことをされてまでサービスをしなくてもいいよ」
その瞬間スタッフが入ってきた。
あらかじめ、すぐ手に取れるように分厚いガラスの灰皿を近くに置いていた。
「君、ちょっと来てくれるか。」
複数の男たちが俺を囲んだ。
僕は、ドアに向かって直線状に立つ男を灰皿で殴り、突破して部屋を飛び出した!
階段から上がってくる。男達を上から飛んで踏みつけておりていく。

次の階段も下から上がってくる。上へ飛んで、男達を踏みつけたが、端にいた男を倒せなかった。殴りかかってきた男の手を下によけ、みぞうちを下から叩き上げる。
息がとまり男はうずくまったが、その間に倒れた男に足を掴まれ、
上から複数のスタッフに追いつかれて、上から飛んできた。そして僕は、
踏み台となった。
踏まれて、踏まれて
殴られて、殴られて、殴られた。
二人の男に、両手をとられ、後ろに回される。
そしてもう一人の男に後ろから髪をつかまれている。

店長らしき男が、微笑みながら言ってきた。

「勧誘の罰金50万。騒ぎを起こした罰金20万。いや80万にしようか。
どう払わせようか。」
このまま罰金を拒めば、オーナーの元へ連れて行くかもしれない。
あまい期待を持ち

「もう1円ももってねーよ。つうか死んでも払わねえ」

と僕は、言った。

すると髪をつかんだ男がゆっくりとゆっくりと僕の顔を下に、押さえてくる。
見えるものは床。

どんっ!

男の膝が飛んでくる。
両手は動かない。頭も上げられない、よけられない。
ひたすらに顔面に膝が打ち当たる。
バチバチと音を立てて。

蹴りすぎて、疲れた男が蹴りをやめた時、見えた床は血だらけに。
頼むから財布に気付かれないように、オーナーの元に運べと願う。

蹴りつかれた男は「とりあえず、別の場所に移してこいつを監禁しろ。」
そうだるそうに言った。

「よしっ!」
心でガッツポーズを決める。

複数の男に連れられて、店の前につけたバンに載せられた。
ふらついた足で、後部座席に乗った。

意識がもうろうとする。車の揺れに絶えられず、両端にいる男に倒れかかったとき、
男が手で俺をおさえた。

やばい。

抑えた手は、ジャケットの内ポケットに入れていた財布に触れる。
抑えられたのに、感触がなかったから、僕は、すぐにわかった。
その膨らみに男は驚き、すぐに財布を取られた。
そこにはおやじから奪った大金が。罰金をゆうに超える現金を入れていた。
あさはかだった。。。

男はすぐに電話をとり、店長にかけた。
こいつらも、監禁するのはめんどうだし、リスクもある。
金さえあればいろいろと手間が省ける。
現金だけ抜き取り、その辺に捨てろと指示されたようで、
すぐに路地裏のゴミが積まれた場所に投げられた。
「あー。でもあれか。あの女だ。あれは絶対知っている。
手首に、縄で縛られた跡があった。」
僕は、、ゴミの上で笑った。

「何笑ってんだ?」
そう男が言った。
「早く乗れよ!」
と運転しているスタッフに言われているが僕から目を離さない。
「やるよ。現金なんてもう要はない。おまえらもな。欲しいものは手に入った」
「何わけわからないこと言ってんだ」

袖をめくり振りかぶって力一杯、最後の一発。僕は、ゴミの上に倒れた。

夜空を見上げる。

「こんな腐ったことをしている俺みたいな人間がゴミの上で寝ているっていうのに星は変わらずいつもきれいだなあ」

僕は、ゴミの上だけど、心地いい。
やっとやっと、手がかりが見つかった。
やっとやっと、あの獣に会える。
妙な自信があった。
母も手を縛られていた。
母と同じ、きれいな目をしていた。
母と同じ、悲しい目をしていた。
店で一番若く、きれいだった。
きっときっとあの女もあの獣のカモになっているはず。
そう、少しにあけた。

僕は、こんなゴミの上で今までに感じたことのない達成感、幸福感。
なんか生きているって感じがしている。

「僕は知らない間にずっと、ずっとこの悪にむしばれてたんだな。悪が悪を生み。
復讐のために、この日のために生きていたんだな。」

ゴミの上なのに、いつもより安らかに深く深く眠った。
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