僕は悪にでもなる
なんだろうか。この気持ち。

何も感じない。もう僕は死んでいる。
感情が薄くす薄くどこか遠くへ。

目の前で人が死んでいる。だらだらと血を流し
エレベーターの隙間に流れ込む。

俺が殺した。この手で殺した。

きっとこいつの家族は俺を恨む。
俺が交わした血の契約がまた誰かに引き継がれる。

でも何も思わない。何も怖くない。
今もう僕は死んでいるのだから。

そしてまた正義とごまかし名付けて
不気味な笑みとともにまた黒い渦の中へ。

目の前で垂れ流れる血を見ては
ぐっと胃酸が食道を通り、嘔吐する。
くらくらとふらふらと意識が遠のいていく。

ふらつく足に力を入れて20、21、22、23,24
あがっていくエレベーターを眺めている。

25。

エレベーターが止まり開く。

ゆっくりとゆっくりと左奥のやつの元へ。

まってろ。今行く。今行く。
そしてもう俺の人生はここで終わる。
次こそ次こそ虹美の元へ。
直樹、悪いものを残してしまった。
申し訳ない。
俺はもう生きられない。
やっと終われる。やっと終われる。
つらく悲しい人生だった。

俺はセキュリティーコードを打ち扉をあけた。

見えたものは、男と少女。

「内田。。。どうしてここへ。ここがわかった。何をする気だ。」

小さな小さな少女を抱きかかえ男はいった。

「大井の息子だな。俺がここに来た理由。来れた理由。何をするのか。
北川に聞けばいい。あーもう死んだか。」

「お、お、おれは確かに、確かに桜をさささ、桜を殺せと○○に指示した。
これは、お前がお前達が父さんをやった、復讐だ。
何が悪い。先にやったのはおまえらだろ。これでおわいこだ。」

「何が、何が、おあいこだよ。
俺達はどれだけのものをあいつに奪われたか。
そしてそして最後の最後の最後に。なぜ。なぜ。」

俺は死んでいた心が生き返り涙を流し始めた。

「桜は、桜は、やっと絶えない愛にたどりついた。
小さな小さな命に救われて。

そして俺も同じだ。小さな小さな愛に救われてあの場所で二人で誓った。
このけがれのない小さな命をけがれのない愛の灯をともし、永遠に消えないように
守っていこうって。俺達の悪をここで断ち切り。愛をつないでいく。
強く強く決意し、一筋の希望が見えたその瞬間にお前がお前が全てを奪った。

桜の意思はもうどこにもない。どこにも伝わらない。

空美はこれからこの悪とともにずっと戦っていかなければならない。
絶え間ない憎しみと重たい苦しみを背負って。
鏡を見るたびに、残るやけど跡を見るたびに、愛を失い悪にうなされるだろう。

お前がやったんだよ!お前がやったんだよ!」

最後に最後に大きく大きく叫んだ。

「俺はあいつに指示したのは桜の命とお前の命だけだ。爆弾を使い、公園で爆発させたのはあいつが決めたことだ。俺の指示に反して。
この子を見てみろ。俺の子だ。。子供には手をだせるはずがない。」

俺が大きな声で叫んだせいか。
お父さんが祈るように俺に訴えているせいか。

小さな小さな体が小刻みに震え
小さな小さな手でお父さんを捕まえている。
怖いだろう。俺が獣に見えるだろう。悪に見えるだろう。
幼きころに俺が見た大井のように。
まるで獣に見えたあの大人に
ずっと憎んできたあの男に
今俺はなっている。

そしてけがれのない美しい涙が、悲しい涙が、透き通るような瞳から
新鮮な肌をすべるように流れている。

俺は力がぬけた。。。

「もう。終わりにしよう。俺達がやったことは認める。
これで、これで和解しよう。」
諭吉の束が足元に飛んでくる。

「和解の意思だ。これが謝罪の意思だ。もうお前には手出しはしない。
それがもし嘘だったとしても。
これだけあったら俺からも十分逃げられるだろう。頼むから拳銃をおろしてくれ」

「また。諭吉か。」
そういって俺はその上に座った。

少女は相変わらず泣いている。
そしてもう一つ目に入ったのは壁に飾られた日本刀。
ゆっくりと立ち上がり壁へと歩く。
そして手にした。

「何処も彼処も飾ってるな。
この日本刀。お前らにとって何かあるのか。
俺はこれで、かずみさんを殺してしまった。」

そういって俺は束につまれた諭吉に剣先をあててゆっくりと斬っている。

そして駆け付けたパトカーのサイレンの音が聞こえる。
エレベーターで死んでいる北川に気付き誰かが通報した。

「何してんだ。はやくそれを持って逃げろ!すぐに警察がくるぞ!」

「これはいらない。俺はここで死ぬ。」

「やめろ。助けてくれ。許してくれ」
大井の息子は震えながら小さな命を抱きしめている。

「心配するな。この子の前でお前は殺せない。
なあ。聞いてくれるか。俺は桜とこの種を。」

そう言ってポケットにしまっていた種をとりだした。
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