僕は悪にでもなる
私には二人の父親がいます。

そう空美が手紙を読みだした。

私達は大きな悲劇に出会いました。

その悲劇に奪われたものは計り知れず、大切なものを
いとも簡単に奪われて行きました。

しかしその悲劇に、悪に、最後まで立ち向かい
二人の父親は私を守るためにその代償を受けたのです。

そして私はここにいます。
すべてをかけて守ってくれた私の心はここにいます。

私の父達の口癖は

「悪から断ち切り、愛をつなぐ」

父達が強大な悪を命を削って、命を張って断ち切り
私に愛をつないでくれました。

そして愛する人に出会い、お腹に宿る愛。
私は父達からつないでくれた愛をこれから生まれてくる子、そしてそのまた
子供にへとずっと愛をつないでいくのです。
父達の意思を胸に灯し続け物語はこれからも続いていきます。

直樹お父さん。
今まで本当にありがとう。
愛しています。

あなたがお父さんだから私は救われた。
あなたのおかげで悪から断ち切り愛に巡り合えた。

今も鮮明に覚えています。
必死で悪に立ち向かうあなたの姿。
必死で幼い私を守ろうとするあなた。
私の幸せを誰より喜び涙したお父さん。

一秒たりとも忘れたことはありません。

直樹お父さん。今日から私は旅立ちます。

誰よりも今私は幸せです。
誰よりも今愛を感じています。

だからもうもう心配しなくても大丈夫。
お父さんのおかげで今の私の心がここにあるのです。
私達の悲劇は終わったのだから
お父さんも幸せになって欲しい。
ずっとずっと元気でいてほしい。
あなたがつないだ愛が生まれて孫の顔を見て
いつまでもずっと笑顔でいてほしい。

そして本当に今までありがとう。

直樹は下を向いて涙をこらえている。

お母さん。聞こえますか?
お母さん、おばちゃん見えますか?

私はここにいます。

これから私は大きな愛とともに生きていきます。
こんな幸せな私の姿をずっと見守ってくれますか。

どうか、どうか安らかな目で私を見ていてください。

そして最後に幸一お父さん。

私は今あなたどこにいるのか。私が見えているのか。
解りません。

でも話します。聞こえていなくても、見えていなくても
伝えたい。

虹美は言葉を詰まらせる。

私の顔に残るこのやけどの跡は悪でも憎しみでも何でもありません。
これはまぎれもない愛です。

あなたの命と引き換えに残してくれた愛です。

直樹のこらえていた涙は、思うがままに流れていく。

公園のあらゆる方向からすすり泣きが聞こえてくる。

空美はあふれだす感情に言葉がつまり、公園全体を静けさが包んだ。

みなみも堂元さんも泣いている。
みなみのおばあちゃんは、優しいしわを涙がたどり
小さな体で細い手で大きな数珠をもち、
何度も何度もこすり合わせ
お経を小さな声で唱えている。
繰り返し、繰り返し。

もう二度と会えないけれど。

そう空美はまた言葉を走らせた。

あの日流れた あなたの涙を
私は決して忘れません。

悔しくて悔しくて涙しながら私の手を握った
最後に見たあなたは、とても悲しい顔でした。

でもあなたの手から感じた温もりは
優しく愛に溢れていました。

流れる涙も悲しい顔からも私はあなたの絶え間ない優しさと愛を感じ取りました。

あやまるあなた、
祈るあなた、

「ごめんな。何も守れなかった。ごめんな。ごめんな。
どうか、いつの日か大きな愛に巡り合い
幸せになって欲しい。こんな俺の頼みだけど聞いてくれるか。
何もしてやれなかったけど空美ならきっとできるきっと。きっと。」

そう最後にかけた言葉。

あなたが私のかわりに大きな悪を断ち切ってくれたのよ。
あなたが命を張ってこの愛をつないでくれたのよ。

だからもう誤らないで。

空美は高まった感情を落ち着かせるよう一息入れて、また、口をすべらせる。

私が今まで痛い雨に耐え待つことができたのは
ここに温かい日差しがあたることをあなたから教わっていたからです。

あなたからもらった種を土にうめ、毎日、毎日水をあげてきました。
花が咲き、
育ててきた大きな花はやがて種を生み、私はお腹にいる子供に上げ
また花が咲きます。

咲いた花を見て私たちはまた勇気をもらい。
生まれる種はまた私の孫に生きわたります。

だから、どうか、くやまず、安らかに私を見てください。

そしてきっときっとこの先も私を見守ってくれますよね。

悲しい時は空を見上げてあなたに呼びかけます。
返事がなくたって何度も何度も呼びかけます。

きっとこの空にあなたがいる。
この空のどこかにもし神様がいるのなら
どうかこの言葉を届けてほしい。この思いを届けてほしい。

きっとあなたはこの空でとわ)に生きている。

幸一お父さん。ありがとう。愛しています。

心から心から愛しています。感謝しています。

みんなの分まで私、生きていきます。

伝えきれない想いが結晶になって心の中で今も輝いています。
あなたの想いが、今もこの中で輝いた。

小さな種から始まり、愛の水を得て育った花達
桜達にまけずと咲き誇り
ささやか風に揺られて振舞った。

愛別離苦に手に入れた愛種と共に歩きだし少女。

亡き父の願い握り締め、
幾度困難のりこえて
どんな雲行きあやしくても
どんなに命くすんでも
善美な心信じつらぬき
亡き父の本望こもる優愛に
信愛あたためつらぬいた

歩んだ道筋の果てに
たどりついた愛の盛

悲劇の地を隆盛の愛と桜達が
幸せの地にすり替えた。

約束果たし輝いたこの命が
旅立つ未来への希望の道に明かりを照らす。



一意に戦った厄神に腐敗堕落した亡き仏。

過ぎた行路はどんなに千辛万苦を迎えても
進む人生に愛からむ。

難行苦行な行路に
終止符を打ち
申し子に遺愛のこし生を終える。

真実一路に進んだ愛路は
どんな廃人なりとも起き上がる。

最期に残した愛種は一粒万倍となり
暗闇さまよう霊魂は踊る千の花に導かれる。

愛惜残し去った無言の魂は

愛こもった花穂に眠り、
隆盛ではなかや仏世界に。
平穂平和な花見つめ愛しつらぬいた申し子を見守った。

不死鳥が笑って飛んで行った。
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