キミが教えてくれたこと
今日の授業は5限で終わりなのだが、茉莉花はなかなか百合にアルバムを渡せずにいた
教室でも、移動も、いつも誰かが百合の側に行き話込んでしまう
できる限り一人きりの時に返したいのだがなかなかチャンスが掴めない
「立ち替わり入れ替わり、いろんな子が川瀬さんのとこに行くのな」
『彼女、才色兼備だし分け隔てなく誰とでも仲良いし気さくだからみんな憧れてるのよ』
そう、茉莉花自身も自分に持っていないものをたくさん持っている百合をいつも羨ましいと思っていた
自分も少しでも彼女の気さくさや人懐っこさがあれば…と
「彼女には彼女のいいとこがあって、茉莉花には茉莉花のいいとこがある。自分が他の誰かになることは出来ない、けど他の誰かも自分になることはできない」
『え?』
ハルトは百合を見つめる茉莉花にそう言った
「俺は茉莉花の優しいとこや、気の利くとこいっぱい知ってるぞ」
あとヤキモチ妬きなとこ、としゃがんで茉莉花の机に両腕を組んで置き、笑顔で見上げそう言った
茉莉花は目の前のハルトに胸が熱くなった。きっと顔も赤くなってるだろうと予測出来たので「…馬鹿じゃないの」とそっぽを向いた
ハルトにはいつも心の中を見透かされてるみたいだった
何も言わなくてもそっと寄り添ってくれる
欲しい言葉を躊躇なく言ってくれる
否定することなく受け入れ、その上で自分の意見を述べてくれる
優しい、そんな簡単な言葉じゃなくもっとシンプルで、でももっと熱くなるような…
そこまで考えた時、一つの言葉に辿り着いた
”好き”
考えた瞬間、心臓がすごい音を立てた
思わず手の甲で口元を抑える
「…茉莉花?」
心配そうに見上げるハルトに見られたくなくて窓の方へ体を向ける
ーー好き
何の前触れもなく自分の気持ちに気付いてしまった
ーーでも、
そうだ、彼はこの世にはいない人なのだ
そう考えると今度は胸が急に苦しくなった
だんだんと頭の中がクリアになってさっきまで聞こえなかったクラスの騒がしさが耳に入ってくる
茉莉花はハルトに、なんでもないよと笑顔で返し入って来た担任を見て帰宅準備をした
好きと気付いたが、叶わない恋だとも気付いた
茉莉花はそこから考えることを止めて、教卓に立つ担任の話を聞いていた