キミが教えてくれたこと
担任は教卓にある日誌や出席簿を持ち、教室を出る時に茉莉花に頑張れよと伝えて職員室に向かった
茉莉花は誰も居ない教室でそんな担任の背中を見送った
「…大丈夫か?」
『ありがと。あー、やっぱり川瀬さん帰っちゃったみたいだね』
百合の席を見て鞄が無いことを確認する
『仕方ないね、明日また返すよ』
そう言って教室を出た
「茉莉花は、卒業したら就職するのか?」
先程、担任と話していたことを聞いてみると茉莉花はうん、と答えた
『以前はやりたいことがあったんだけど、父が亡くなってわかんなくなった。心にぽっかり穴があいてしまったみたい』
茉莉花は手摺に手をかけてゆっくり階段を降りる
『なんの為に生きてるのか、なにがしたいのか、どうしていけばいいのかってずっとぐるぐるそんな事ばかり考えてたら本当にやりたいことがわかんなくなった』
最後の階段を一段降りると、まだ自分の後ろの階段にいるハルトを見上げる
『でも、あなたに…ハルトに出会って”今”を大切に生きていこうと思ったの。1日1日を大事にして、その中でやりたいことを見つけられたらいいって。それが例え卒業した後だとしても、おばあちゃんになってたとしてもやりたいと思ったことに「遅い」なんてないでしょ?それが”今”の私の答えよ』
強い眼差しで自分を見上げる彼女に、ハルトは胸が震えたように感じた
『…それまで…一緒にいてくれる…?』
きっと困らせてしまう質問だと分かっていた
今のこの関係が必ずしも永遠に続くと保証できないからだ
いつ、どうなるか全くわからないから曖昧な期限を提示した
それでも、茉莉花は少しの願いをかけての質問だった
ーーハルトと一緒にいたい
ただ、それだけのほんの小さな願いだった
「…当たり前だろ。だって、離れられねーじゃん」
ハルトも曖昧に、だけど傷つけないようにそう言った
茉莉花は微笑むと下駄箱に行き、上履きからローファーに履き替え教室棟を出た