アロマティック
「みのり、店が欲しくなったらいうんだぞ。それから、壊れた分のアロマと基材は、俺のほうが用意するからな」

 さっそく手配するために、スマホ片手に永遠が楽屋を後にする。永遠がいなくなると、先ほど転んだときのことを思い出したみのりから、笑顔が消えた。
 思ったよりも早く、こんな日が来てしまった。
 仕事とはいえ、永遠とはもう少し距離を置いたほうがいいのかもしれない。


 楽屋を後にした永遠は、廊下の自販機のところで、窓枠にもたれかかってブラックコーヒーを飲む朝陽と出くわした。
 お互い相手を認め合うと、手をあげて挨拶を交わす。

「みのりちゃん平気?」

「知ってんの?」

「ここから見てた」

 窓を指しながら朝陽が後ろを振り返る。永遠も朝陽の横に並び、そこから窓ガラス越しに外の様子を見た。確かにここから一階の入り口付近がよく見えた。

「転んだだけだから平気だって、本人はいってる」

「みのりちゃんが転んだっていったのか?」

「ああ」

「それ以外はなにも?」

 朝陽の言い方に、なにか引っ掛かるものを感じた。

「他になにかあるのか?」

 逆に聞き返す。

「ここからは、ファンの子に押されて倒れ込んだように見えた」

 朝陽の発言に、目を見張る。
< 123 / 318 >

この作品をシェア

pagetop