アロマティック
「……マジか」

 みのりの言葉を信じていた自分。
 もし、朝陽から聞かなければ真相を知らずに……。
 拳を握りしめた永遠が、改めて外を見た。そこには警備員に監視されながら、出待ちのファンが待っている。
 誰がみのりを危険な目に合わせた?
 永遠の目が冷たく細められる。強く握りしめた拳が怒りで震える。
 足を踏み出す永遠を、遮る広げられた朝陽の腕。

「どけ」

 鋭い眼差しで威嚇する永遠は、まるでたてがみを逆立てて牙を剥く狼だ。怒りで我を忘れた永遠に、鷹のように鋭い眼差しの朝陽が立ちはだかる。

「落ち着けって」

「断る」

「………」

 睨みあったまま朝陽は思った。
 役以外でこれほど感情的になる永遠を見るのは、久しぶりだ。
 以前は短気だった永遠も、芸能界に長くいると、ときに感情を押さえて相手に合わせなければならない。Earthのメンバーのなかで、最初に心をコントロールする術を身に付けたのは永遠だった。それ以来、普段怒ることがあったとしても、それを表にださなくなった。それがいまは、我を忘れるほどの怒りに囚われている。
 そのことに、朝陽は衝撃を受けていた。

「おおごとにしたくないから転んだって偽ったんじゃないのか? みのりちゃんの気持ちも考えろ」
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