アロマティック
 屋内に戻ることに決めたみのりは、身をひるがえした。
 他に、どこかひとりになって落ち着ける場所を探そう。
 天音に背を向けて歩き始めたみのりの耳に、小さな笑い声が届いて足を止める。

「本当、永遠には参っちゃうよね」

 振り向いたみのりの瞳に、こちらを向いた天音の楽しそうにくすっと笑う姿。その言葉のニュアンスの意味がわからず、みのりは黙ったまま天音の出方をうかがった。
 みのりが警戒していることはわかったので、天音は、両手を絡ませた腕を上にあげて伸びをし、普段通りリラックスした様子で、柵の手すりに寄りかかった。

「みのりちゃんの過去に何があったかなんて、ぼくは聞かない。でも、抱えたものの痛みはわかる」

 わたしの気持ちがわかる? ここに留まらせるための詭弁?

「浴びせられる偽善者気取りの同情や、隠そうともしない好奇の目。生半可な気持ちで差し出された手ならいらない。途中で力尽きる手ならいらない。それならひとりで耐える方がましだ。違う?」

 みのりには天音のいっていることが、わかった。
 でも、なんで?

「小さいときから特徴的な高い声だったから、声を発するだけですぐにぼくだってわかる。それに、こんな見た目でしょ? ほんとは女だろって散々いわれてきたよ。あの頃は自分の守りかたさえ知らず、一方的にやられてた」
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