アロマティック
 永遠と離れて落ち着く時間が必要だったみのりは、天音に誘われるまま後をついて行った。廊下を抜け、上階へ続く階段を上り、非常扉を開けて屋上へ出た。周りに立ち並ぶビルのすき間から冷たく吹く風が出迎える。熱くなった頬の熱を冷ますのにちょうどよい風だった。

「………」

 みのりは天音との間に、一定の距離を保って立ち止まった。
 この場にみのりを連れ出した天音は、組んだ腕を手すりに持たせかけ、寛いだ様子で目を閉じて風に身を任せている。
 どういうつもりでここに連れ出したの? 色々聞くつもり?
 最初から永遠の肩を持つつもりでフォローに回るなら、わたしはなにも話すつもりはない。みのりは身構えた。

「………」

「………」

 天音はただそこにいるだけで、いくら待とうが話しかけてくる気配がない。
 まるでみのりの存在などそこにはないかのように振る舞う天音に疑問を感じ始める。
 なんでわたしはここにいるの?
 動きのない天音に、連れ出されたみのりはだんだん不愉快な気持ちになっていった。
 天音の気分転換の付き添い?
 永遠と一戦交えたばかりで、まだ気持ちが高ぶっていたみのりは、次第に天音の不可解な行動に、苛立ちを感じ始める。
 だめだ。このままでは天音相手に、またケンカをしてしまいそうだ。そうなる前に退散しよう。
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