アロマティック
 体中を緊張が走った。作業中のメイク係りに、やめてもらおうと咄嗟に手を上げかけたところで止める。

「はい?」

 永遠の動きを不審に感じたメイク担当が、ブラシを持つ手を止めた。

「あ、いや。なんでもないです。続けてください」

 強張っていた肩の力は抜けたが、それでも凌の動きを追う永遠の視線は、離れなかった。


 一方、みのりは。
 撮影前の緊張感漂う現場で、先程からこちらのほうばかりを見ている永遠が心配でならなかった。
 数人のスタッフに囲まれ、指示なども飛んでいるようで、それに頷いてみせるけど、視線はずっとこちらに向いていた。

 大丈夫かな?
 わたしのほうが心配になってしまう。

 凌の存在をピリピリと肌が感じていて、落ち着かないけど、それよりも永遠と一緒にいたいという強い気持ちが勇気をくれる。
 ここにいさせてくれる。

 永遠と作ったアロマの時間。
 参考書を読んだり、精油をブレンドしたり……教えているというより、ときには真剣に、ときには楽しそうな様子の永遠に、気づくとわたしも同じ目線で楽しんでいた。
 ずっと同じ目線だったからこそ、不安はない。胸を張って送り出せる。
 アロマの知識を吸収して、自分のものにしていく永遠を近くで見てきた。
 一緒にやってきたことの結果を、見届けたい。

「みのり」

 その声にハッと顔をあげると、少し離れたところに立つ凌がこちらを見ていた。
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