アロマティック
 また、永遠とキスのことを考えていた自分に気づく。
 いまは、そんな浮わついたことを考えている場合じゃないのだ。
 わたしの大事な仕事が大一番を迎えているといっても、過言ではないのだから。身を引き締めて取りかからないと。
 みのりは気持ちを切り替えるため、頭を振って大きく深呼吸。
 いつも通り。平常心。自然体で。
 おまじないのように繰り返し、気持ちを仕事モードに切り替える。
 ハーブティーを入れた5つのボトルマグをトートバッグに入れ、肩にかけたみのりは給湯室を後にした。


 アロマティックの撮影は、順調に進んでいた。
 馴れた手つきで基材を扱う永遠は、NGを出すことも少なく、シーンチェックで撮り直しや変更もなくスムーズに進んでいる。
 トラブルなど持ち上がることもなく役者同志の関係も和やかで、このドラマに関わるスタッフ全員がひとつにまとまって、アロマティックという作品に関わっているのがわかる。その熱意が視聴者にも伝わっているのか、視聴率も上々で、社会に受け入れられているみたいだった。

 表向きは永遠も凌も、仲良くやっている。
 みのりのほうも、初日以来ときどき凌の視線を感じることはあっても、話しかけられるようなことはなかったのでホッとしていた。
 ドラマに集中しようと決めたのか、どこにいてもみのりの側にはナイトとして必ずEarthのメンバーのひとりがついているおかげなのか……。
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