アロマティック
「まぁまぁ、こちらこそ。お世話になりました。こんなに素敵なハンサムさんに指導する機会なんて、そうありませんからね。とても貴重な時間を過ごさせていただきました」

 本当に嬉しそうに話す須藤さんの手を、永遠は両手で優しく包み、目の高さを合わせて頭を下げる。

「それではわたしは、他の方にも少し挨拶してきましょうか」

 失礼するわね、と須藤さんが席を立っていく。もしかして気を使われてしまったのだろうか?
 須藤さんと入れ替わるように永遠が座った。

「楽しんでるか?」

「うん。お料理が美味しくてたくさん食べちゃった。永遠くんはちゃんと食べれて――」

「皆さん、おつかれさまでした!」

 マイクを使ったひときわ大きな声に、みのりも永遠も顔をあげた。手をあげて周りの声援に答えているのは凌だ。

「まず感想を一言でいうと、アロマティックが終わって寂しいです!」

 腕で涙を拭うような仕草に、拍手や声援、指笛の音があちらこちらからあがる。

「でも、ここで立ち止まってはいられません。きっとアロマティックであった様々なことは……忘れない。素敵な思い出として大事に胸にしまっておきたいと思います」

「あれ、お前のこといってるんじゃないか?」

 言葉のひとつひとつが意味深に聞こえる。永遠が眉を寄せて険しい表情を浮かべた。

「気のせいじゃない?」

 過剰なほど凌に反応する永遠に、みのりは苦笑いを浮かべた。

「どうもアロマティックとみのりをかけていっている気がする」

 呟く永遠は、面白くなさそうだ。

「過去は振り返りません。ぼくは前を向いていきます。さて、ここで、ぼくからお知らせがあります!」

 お知らせ?
 みのりと永遠は顔を見合わせ、緊張して次の言葉を待った。
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