アロマティック
「ぼくはしばらく日本を留守にします」

 周りがざわついた。
 日本を留守? どういうこと!?
 凌の発言に唖然とするふたりを、遠くから凌が見た。

「アメリカに語学留学することを決めました」

 女子から悲鳴があがるなか、みのりは身動きもせず、凌がいったことを考えていた。
 凌が、日本を離れる。アメリカに語学留学……。

「そういうことだったのか」

「え?」

 永遠の呟きに顔をあげる。

「明日、時間取れるかと聞いてきたのは、空港まで見送りに来て欲しいって意味だったんだな」

 そうだったの?
 永遠とわたし、ふたりの時間がほしいといったきり理由をいわず、打ち上げで、自分の挨拶を聞いて欲しいといったのは、このためだったの?

「でも、明日なんてすぐじゃない。どうしてもっと早くいってくれなかったの?」

「多分、覚悟が揺らがないように、直前まで黙ってたんだな」

 凌がいなくなる。
 日本にいると思うのと、海外にいると思うのとでは全然違う。
 明日、凌は旅立つ。
 泣きたいわけじゃないけど、悲しいわけでもないけど、なんていったらいいのかわからない感情に、みのりは黙りこんだ。

「……複雑だよな」

 永遠が肩に手を置いてなぐさめるてくれるのも、どこか違う次元で起きているように、現実味を感じることが出来なかった。
 アロマティックの打ち上げは、凌の衝撃的な発言が大きな印象を残して終わった。
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