アロマティック
「ごめん。ぼくがいなくなると寂しいって、少しは感じてくれる?」

「………少しは思うかも」

 ちゃんとお別れをいわなくちゃいけないのはわかってる。それでも、時間がないと焦りつつも素直になれなかった。
 もっと色んなことを話したかった。

「永遠さん、ごめん」

 凌は謝り、スーツケースを置くと、いてもたってもいられないといった風にみのりを抱きしめた。

「あっおま……!」

 慌てて引き剥がそうとして、つかの間ためらい、抵抗しないみのりを見てやがて諦めた。
 これはハグだ。親しい友人同士がするハグ。
 心のなかで止めないいいわけを必死に探す。

 みのりの脳裏を、幸せだった過去がよぎる。
 数年前。楽しいときも悲しいときも嬉しいときも、何度も抱きしめたくれた腕のなかで、ようやく気持ちに整理がついた。

「気をつけてね」

「ありがとう」

 みのりを抱きしめる感覚を忘れないように。凌は目を閉じて彼女を抱きしめた。
 背中に回した腕に1度だけ力を込め、ふたりは離れる。新しい旅立ち。期待に凌の瞳は輝いていた。
 そして、凌が乗る飛行機の搭乗アナウンスが流れる。

「行く前に、永遠さんにもうひとつだけ、お願いが」

「今度はなんだ!」

 腹立ちまぎれに凌に近づいた永遠は、凌に腕を引っ張られ抱きしめられた。
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