アロマティック
 相手がひとりなら。人気者だというのなら、忙しくてふたりで過ごすような時間もあまりないはず。接近しすぎないよう気を付ければなんとかなる、んだろうか?

 朝早くに叩き起こされて、15分で支度しろと言われるままに、慌てて出掛ける準備。そして、促され追われるようにワゴン車に乗った結果、本人の知らないうちに永遠のアロマアドバイザーになりました。

 喜ぶべきなの?
 職が決まったという点だけみれば、喜ぶべきなんだろう。
 でも、なんか腑に落ちない……。

「あれ、あんまし嬉しくない感じ?」

「雇用期間も書いてないし、給金とかの話し合いもしてないんだけど」

「そこは任せなさい。損はさせないから。まぁ、そういうことでよろしく」

 永遠は白い歯を見せて笑うと、手を差し出し握手を求めてきた。その大きな手をみのりはじっと見つめ、警戒しつつも手を差し出し返す。

「……よろしく」

 大きな手にしっかりと握られ、握手が交わされる。

「体もちっさいけど、やっぱり手もちっさいんだな」

 温かな温もりのある大きな手。長い指は男らしく、しっかりとみのりの手を覆うように包み込んでいた。

 これで契約完了?
 あっけなさ過ぎて信じられない。
 なにをするにも永遠からで、ずっとこのひとのペースに振り回されている気がする。
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