アロマティック
 みのりは大きさの違う、ふたつの手をぼんやりと見つめた。
 昨日の本屋から始まって、居酒屋でのトイレ引きこもり事件でしょ。あれのせいで、永遠に振り回された結果、同意もなくキスされてるんだから……。

 キス!!

 いままでこのひとと普通に話してたけど、昨日わたしとキスしてるじゃない!
 あの柔らかな唇が! わたしとキス!!

「なんかスゲー視線感じるんですけど」

 いま動いたあの唇が!!

「あのさ、手、握ってくれるのは嬉しいんだけど、けっこうがっつりいくね?」

 握手したまま離すのを忘れていた手に、強烈な力が入っていたらしい。永遠が繋がったままの手に苦笑している。
 さっさと離してくれたらよかったのに。みのりは慌てて永遠の手を放り投げる。

「あ。ひどい」

 永遠は心外そうだ。

「たくさんの女性を喜ばせてきた手なのに」

 みのりの雑な扱いに、唇を尖らせ拗ねたような顔。男のクセにそんな顔すらも嫌みがなく、魅力的に映るってどうなの?
 全く憎たらしいったら。

 って、ちょっと待って。
 たくさんの女性を喜ばせた、って。
 喜ばせた、手……。

 永遠の意味深な発言に、みのり固まる。視線は永遠の足の上に置かれた手に引き寄せられて釘付けだ。
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