アロマティック
「ど、どうも」

 精油を使ったオリジナルブレンドのシャンプーを使っているから、なんていえるような雰囲気ではない。

「だから。近くない? って……」

「ローズ、かな?」

 みのりの問いかけなど聞こえなかったように、もう一度香りを確かめた天音が、みのりをのぞき込む。

「あ、うん。ローズも入ってるけど」

 この人は、永遠のような探求心を持って、答えを知ろうとしているわけではない。テーブルに基材を広げたときも無関心だった。アロマに興味があるとは思えないし、これは場をもたせるためだけの、軽い会話に過ぎない。
 それに気づいたみのりは、答える必要はないと判断した。
 今必要なのは、天音と離れ、普通に会話ができる状況だ。

「天音くん、近すぎるからちょっとはな――」

「そろそろ答え、聞かせてほしいな」

 みのりが最初の質問に答えない限り、解放してくれる気はなさそうだ。
 時に人懐っこい笑顔で周りを暖かい気持ちにさせる天音。いまは、普段見せる天使のような無邪気な表情は影を潜め、半分閉じたまつげはどこか色気を感じさせ、狙った相手を誘惑する男の表情をしている。
 いったい、この男はいくつの顔を持っているの?
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