アロマティック
 みのりは予想もしなかったシチュエーションに戸惑ったものの、アロマのことを考えたことで、少し落ち着きを取り戻した。
 天音が答えを望むなら、わたしがだす答えはひとつだ。

「行かない」

 キッパリとみのりはいい放った。
 とりあえず、会話を続けるにしても、天音から少しでも離れなければ。いま、天音が自販機に付いているのは片手だけだ。まだ自由な反対側に移動しようと、みのりは視線を泳がせる。

「なんで?」

 そう問いかける天音が顔をあげ、みのりの視線の先に次の行動を読んだのか、もう片方の腕も自販機につけた。これでみのりは、完全に閉じ込められる形となった。

 しまった……!

 状況は最悪。
 落ち着け、わたし。

 きれいな天音の瞳が近づく。鼻先が触れてしまいそうなくらい。

「そんなに永遠がいいの?」

「いいって……どういう意味なのかわからない」

 覆い被さるようにして迫る天音に、息が詰まりそうだ。

「さっきは仲良く何か作ってたじゃない」

「あれがわたしの仕事だもの」

 確かに、永遠とアロマスプレーを作っている時間は楽しかった。

「永遠のこと、好きなんでしょ?」

「好きって……」

 そんなこと考えもしなかった。
 好きなのはアロマで、楽しそうに作っていたのは、アロマを扱うのが好きだから。
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