アロマティック
「はい」

 各々が丁寧に返事をし、立ち上がる。見送るためにみのりも立ち上がった。

「いってらっしゃい」

「じゃ、俺はうがいしたら向こうで合流するわ」

 聖がトイレの方向を指差し、足早に駆けていった。続いて朝陽が出ていき、天音、永遠が続く。

「行ってくる」

 振り向く永遠に、みのりはいってらっしゃいと頷いた。
 着替えを終え、衝立から出てきたリーダーが最後。空がみのりの前で立ち止まる。

「なんか、アロマっていいな」

 生き生きとした空の姿に、疲れは見られない。
 睡眠をたっぷり取れたらしいことが、その様子から見てとれた。

「うん、効いてよかった」

「なくなったらまた作って」

「うんっ」

 リーダーのお願いが嬉しくて、みのりは大きく頷いた。

「ところでみのりちゃん、甘いもの好き?」

「え? あ、うん」

「よかった。これ、食べてね。それじゃ行ってくるよ」

 みのりがお礼をいう時間もなく、空はドアの向こうへ消えてしまった。
 差し出したみのりの両手に置かれたのは、紫色の和紙でできた小箱。楽屋にひとり残されたみのりは椅子に座り直し、空からもらったばかりの小箱を開けてみた。
 中身は丸いフォルムの、淡いピンク色をした、餅状の和菓子だった。
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