アロマティック
「わたしが最初に見つけたんですけど」

「………」

「………」

 どちらも譲る気はないようで、一冊の本を手に取り合ったまま睨み合いが続く。
 もっともサングラス越しに相手が睨んでたらだけど。みのりが心の中で呟く。
 さいわいその付近に他の客の姿はなく、ふたりの争いはふたりだけで、沈黙のなか続けられた。
 このままではラチがあかない。
 みのりは試しに引っ張ってみた。しかし、相手は1ミリも動かず、離す気はないらしい。
 なんなのこの男!

「……強情な女」

 マフラー越しの少しこもった呟きには、あきれたような響きが含まれていた。

「ご、強情って……」

 あまりの不躾ないいように、みのりは唖然とした。
 初対面の相手に対してなんてこというの!?
 見てくれが怪しいだけでなく、態度はとんでもなく失礼。こんな相手に我慢してまで丁寧に接することはない。
 みのりの堪忍袋もそろそろ限界だ。

「なんなんですか、あなた!?」

 怒りで大きくなる声に、騒ぎを聞き付け本屋にいた他の客たちが何事かと集まってきた。

「まずい」
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