百合の花


「遅くない?読むの」


「……」

そうかな、と首をかしげる。


本を広げて二日たつのに、瑠璃はまだ読み終わらない。


今も熱心に視線を這わせるが、正直言って本より俺を見ていてほしいと思った。

絶対に口にしないけど。


ちなみにその本は伊織執筆のものだ。

『新婚』がテーマらしいが、俺まだ読んでないからよくわからない。


「…あ」


小さく彼女は口を広げた。

「なに、どうかした?」

ふああ、とあくびをこぼした俺に、瑠璃は答える。


「…じっくり読んでるから」


ラブラブな兄弟だからの台詞である。


…伊織、今度覚えとけよ。

イライラが俺を支配する。

独占欲という名の、イライラが。



瑠璃に這いより、はらりと落ちた髪を耳にかける。


露になった耳に、そっとキスをした。



「っ、」


途端に耳が赤く染まる。


耳が赤くなるのは照れている証拠である。

< 14 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop