こうべ物語



『言ったじゃん。俺は大池さんの事、好きだって。』



(少しでも、ほんの少しでも…。)



『人は人だろ?俺は涼子が可愛いと思うし、素敵だと思うよ。』



(誠也の彼女だなんて自惚れるんじゃなかった…。)



『信じても…、いいですか?』



『当たり前だろ。』



(信じるんじゃなかった…。)



涙が溢れてくる。


けれど、羊達が、動物達が、涼子の心を癒してくれているような気がした。


涼子は六甲山牧場に来ると、必ず一番に見る動物があった。


それはポニーだった。


両親に連れて来て貰っていた頃、よく乗馬体験をしていた。


小さなポニーの背中に乗ると、視界が広がる気がしてとても楽しく感じられた。


その思い出が今も心にしっかりと残っている。


入場口から少し歩くと、ポニー舎が見える。


その奥にポニーパドックがあり、天気が良い今日ならは、太陽の光を浴びながら、パドックにポニーがのんびりとくつろいでいるはずだ。


涼子が近づいて行くと、ポニートラックには、数人の見物客が取り囲んでいるのが見えた。


その中にいる家族連れの1人の後姿に涼子は何気なく感じる物があった。



(あの後姿…。)


< 132 / 202 >

この作品をシェア

pagetop