こうべ物語



神戸市には標高931メートルの六甲山がある。


山頂付近に何ヶ所かある展望台からは、1000万ドルの夜景と評されるほど美しい神戸の街を一望する事が出来る。


阪急電鉄六甲駅より直通バスに乗って、涼子は六甲山の中腹にある六甲山牧場に来ていた。


涼子が幼稚園の頃、家族で春と秋の季節には必ず遊びに来ていた六甲山牧場。


父親が単身赴任、母親が蒸発して家庭崩壊してからも、涼子は幼い頃の楽しい思い出を捨てる事が出来ず、年に一度は電車とバスを乗り継いで、必ず牧場まで来ていた。


入場料を払い、牧場の敷地内に入る。


広大な敷地のほとんどは山の斜面に沿って草原になっていて、あちらこちらで小さな子供達と羊達が戯れている光景を見る事が出来る。


その光景を見ているだけで涼子の心は癒されていた。



(やっぱり、ここに来ると落ち着くな。)



先日、鉄人28号モニュメントの傍で訪れた衝撃。


雨の中。


彼氏の誠也が他の女性と1つの傘の中で寄り添いながら、指輪を見つめている姿を目撃した。


その時からずっと自分を責め続けている。


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