こうべ物語



(私だって、私だって…。必死に頑張ってるわよ!)



子供の頃から、押部谷家の娘と言うだけで可愛がられてきた。


道で転ぶと、家政婦が慌てて近寄ってきた。


小学校でクラスメイトに冷やかされた事を家に帰って伝えると、翌日、父親が冷やかしたクラスメイトの家に押しかけた。


アイスが食べたいと言えば、すぐに差し出され、欲しい洋服があれば、すぐに買って貰えた。


何不自由なく生きてきた。



『麻里奈さんはお父さんに甘えていると思います。』



(甘えてなんかない。誰もが私の事をしっかりと見てくれなかった。押部谷家の娘と言うだけで全て決めつけられていた。押部谷麻里奈を個人として見てくれたのは、七海君だけだった…。)



涙が溢れる。



(私だって、もう大人。お父様の操り人形なんかじゃない。)



『本当に好きならば、自分の人生を切り開くのならば、もっと必死に探すと思いますけど。』



ワイン城のゲートから執事が慌てて近づいて来るのが見える。


フッと息を吐いて肩の力を抜いた。



(もっと必死に、か…。)




《麻里奈×涼子 終わり》


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