沖田総司と運命の駄犬



角屋に着くと、伊東さんに、部屋の前で止められる。




伊東「梓にお願いがあるんだけど・・・。」




梓「何ですか?」




伊東「おなごの格好が見てみたい。着物は用意している。」





梓「それは、さすがに・・・。」




これも、沖田先輩の前だけしかしていない事だった。





伊東「今宵は、私達の歓迎会だ。梓の出し物としておなごの格好をしてもらえないだろうか?」





そう言われてしまうと断れない・・・。





私は、渋々、別室へ行き、そこの女中さんに着替えを手伝ってもらった。





梓「やっぱり止めときゃよかった・・・。」





町娘の格好かと思いきや、芸妓さんの格好をさせられていたのだ。





梓「絶対、沖田先輩に怒られる・・・。」





私は、なかなか、部屋に入れずにいた。





部屋の前でウロウロしていると、伊東さんが、トイレから帰ってきた。





伊東「おぉ!?梓!?見違えた!さぁ!中で酒を注いでくれ!」




梓「あの・・・。私、もう着替えたいです。」




伊東「何を言ってる!せっかくだ!皆に見てもらえばいい!」






そう言うと、伊東さんは、私を部屋に引きずり込んだ。





伊東「皆さん!見て下さい!今宵、うちの姫が、着飾ってくれましたよ!」




伊東さんが、そう言った一言で、皆が、私を見た。





梓「う゛。」




近藤「ん?梓か?おぉ!綺麗になって!こっちに来てよく見せてくれ!」




近藤さんの隣に座りお酌をした。





近藤「梓も召し物、一つでこんなに変わるのか!そういえば、総司と外に出ているときは、よくおなごの格好をしていたな!」




すると、沖田先輩は、冷たい視線で、こちらを見た。




沖田「衆道に間違われて町で噂されるのが嫌だっただけです。」





近藤「そうか?町の者に、総司が、嫁を娶ったのかと聞かれたぞ。」




沖田「なんで、僕が・・・。迷惑です。」




梓「っ!」





その一言一言が、胸に刺さる。





私は、土方さんの所に行った。





土方「お前・・・。俺の言ってたことわからなかったのか?そんな格好して・・・。」





梓「だって、伊東さんが・・・。」





そう言おうとすると、沖田先輩が、隣に座った。





沖田「梓は、あっち側になったんだね・・・。」





梓「あっちって何ですか?」





沖田「知らない?伊東派と土方派だよ。」





梓「そんなのなってません!」





沖田「僕は、僕以外の前でおなごの格好も許さなかったよね?それなのにこんな・・・。」





梓「私も町娘の格好かと思ってたので・・・。」





沖田「そもそも、おなごの格好してるんじゃないか。僕は、するなって言ってたよね?もう、僕の言うこと聞けないみたいだし、伊東さんに可愛がってもらえば?って、もう、可愛がってもらってるか?」





梓「なんでそんな事、言うんですか?」





ジワジワと目の奥が熱くなる。





沖田先輩は、それだけ言うと、プイッと自分の席に戻っていった。
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