沖田総司と運命の駄犬


沖田先輩が、見廻りに行った後、私は、土方さんの部屋に向かった。




土方さんの部屋の前で、声をかける。





梓「あの・・・。梓です。沖田先輩に土方さんの所に行ってろと言われて来ました。」




土方「あぁ・・・。」




部屋に入り、さっきここへ来る前に淹れたお茶を出した。





土方「あぁ。すまねぇな。」




梓「いえ。」



何だか土方さんの様子が変だ。




元気がない。




疲れているんだろうなぁ。




土方さんは、ずっと、何かを書いている。





私は、墨を擦って墨汁を作る手伝いをした。




そして・・・。




土方「あぁー・・・。少し休むか。」




梓「はい。あ!そうだ!土方さん。失礼します。」





私は、土方さんの後ろに回り、肩を揉んだ。





土方「っ!・・・。悪ぃな。」




梓「いえ!」




ずっと、書類ばっかの土方さんなら肩凝りもあるだろう。





そう思って揉んだが、そこまで、硬くなってなかった。




梓「やっぱり、稽古してるのがいいのかなぁ・・・。」




土方「何がだ?」




梓「もっと肩が凝ってるのかと思って・・・。」




土方「あぁ・・・。まぁ、でも、気持ちがいい。」





しばらく揉んでいると、土方さんの手が、私の手に重ねられた。




梓「っ・・・。」




そして、優しく私の手を撫でた。





首だけを後ろに向けて目が合った土方さんはとても色気がありドキッと胸が大きく鳴った。




土方「なぁ、梓・・・。」




少し甘い声の土方さんの手が、指を絡ませる。





梓「っ!」




上目遣いの土方さんに甘く見つめられ、動けない。




こんなイケメンにこんな風に見つめられたら、誰だって動けないだろう。




しばらく見つめ合っていると、土方さんの体が、少しこちらを向き、絡まった指が、スルッと抜けた。





土方「なぁ、梓・・・。」




そう、囁く土方さんの色気は、半端なく、ドキドキと胸が鳴る。




そして、土方さんの指が、私の腕を上がり、肩に行き、頭の後ろに置かれて、少し力が入った。





誘導するように、土方さんの顔に近付き、至近距離で見つめられる。




土方「こんな事、普段は、言わねぇ。でも、今回ばかりは言う。俺にしとけよ・・・な?」




梓「え・・・。」




それが、当然のように、唇が近づく。




まるで、催眠術にかかったように動けなくて、吸い込まれそう。




梓「土・・・方さん・・・?」




土方「梓・・・。」





あと少しで、唇が触れそうになった時・・・。




スパーーーン!




梓「っ!」




沖田「梓!いい子にして・・・なかったね・・・。」





殺気を纏った沖田先輩が、仁王立ちをしていた。





そこで、やっと、動けるようになった。





沖田先輩は、ズカズカと部屋に入り、私をまた、文字通り、引きずった。




沖田「土方さん。後で、話があります。後で来ます。」





そう言うと、沖田先輩は襖をピシャリと閉めて、私が、立ち上がる前に、また、引きずった。





梓「ちょっ!ちょっと!沖田先輩!まだ、立ってない!しかも、首の襟引っ張らないで!苦しい!」




沖田「ふん!」




沖田先輩は、私を部屋に放り投げた。





梓「痛ったぁ・・・。」





沖田先輩の殺気は凄まじかった。




こ、殺される。




瞬時にそれを感じ取った私は、沖田先輩が一歩踏み出すと、一歩下がった。





梓「お、沖田先輩?お帰りなさい・・・。」




沖田「ただいま・・・。ねぇ。僕の見間違いじゃなかったら、土方さんと何しようとしてたの?」





梓「え・・・?何って・・・。」




沖田「僕が、来なかったら、何しようとしてたの?」




沖田先輩が、来なかったら、きっと、キスしてた・・・よね?





あれって、キスしようとしてたよね?




梓「あ・・・。」





私、土方さんとキスしようとしてた!





ハッとして、沖田先輩を見ると、沖田先輩は、はぁ・・・。と大きな溜め息をついた。




沖田「今頃、気付いたの?あの人は、おなごを骨抜きに出来るんだから、気をつけなよ!」




梓「確かに、骨抜きになったかも・・・。」




そう呟いた私の言葉に、沖田先輩のピシッとキレた音がした気がした。





沖田「へぇ・・・。朝は、斎藤君と間違えて、昼は、土方さんに骨抜きにされて・・・。僕を、バカにしてるの?」




梓「バカになんてしてません!」




沖田「梓の気持ちがわからないよ・・・。」




梓「え?」




あまりにも小さく呟かれた言葉は聞き取れなかった。




すると、沖田先輩は、私の頬に手を置いて撫でた。




少し悲しそうに私を見つめている。




梓「沖田先輩・・・。」




ギュッ。




ギュギュギュギュッーーーー!!!!




両頬を思いっきり引っ張られてつねり上げられた!




梓「痛い!痛い!痛い!」




沖田「お仕置きだから痛いに決まってるでしょ!昨日のこともあったのに、なんで、梓は、そうなのかなぁ!ったく!」




梓「ごめんなさいぃぃぃ!」




沖田「許さない!」




梓「ギェッ~!」



しばらく、私の絶叫が屯所中に響き渡った。




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