沖田総司と運命の駄犬



『占い屋忠兵衛』と書かれた表札。



家の中に入ると、正にあの時の占い屋と全く同じ間取りだった。



私達は、案内された部屋に座った。




土方さんは、別段、驚くわけでもなく、出されたお茶を啜っていた。





梓「あの・・・。土方さん。ここって、あの未来の時代にあった占い屋忠兵衛と全く同じですよね?」




土方「あぁ。」




梓「土方さんは、ここに占い屋があるって知ってたんですか?」




土方「いや。お前が見えたから、声かけただけだ。まさか、こんな所にあるとはな・・・。」




すると、忠兵衛さんが、戻ってきて、私達の前に腰を下ろした。





忠兵衛「土方さんもお久しぶりですなぁ。まさか、この子がこちらへ来てくれるとは思ってもなかったでしょう?」




土方「あぁ。だから、俺は、コイツに感謝してる。連れて来るまでは、どうでも良かったが、今では、あそこに帰してやりてぇと思ってる。」





忠兵衛「なんとまぁ!くくくっ。そうですか・・・。それは、“ご依頼”で?」





土方「・・・。そうしか出来ねぇのか?」





忠兵衛「えぇ。そこに居るべき者は一人ですから。特に、未来に行けば行くほど、個人の情報・・身分証明がハッキリしてきます。過去に連れて行く方が簡単なんですよ?」




え?どういうこと?




梓「そこに居るべき者は一人って・・・。じゃあ、私が、ここに来て、未来では、どうなってるんですか?行方不明とか?」




忠兵衛「まぁ、雑な仕事しかしない者は、そういう手段を取りますが、私は違う。寺井 梓として、別の方が、生きていらっしゃいます。」




は?意味が分かんない。




梓「そんなのおかしい!だって、寺井梓は、私なんだからっ!」





忠兵衛「別に何もおかしい事は、ありません。もし、この江戸時代にも個人情報や身分証明が、存在したらあなたは、今頃、とある藩の姫様になっていたはずですよ?」




梓「それって、立場を交換したって事・・・?」





忠兵衛「そうです。ですので、もし、あなたが、平成の世に戻りたいのなら、誰かをここへ呼び、あなたは、別人として、あちらで、生きることになります。」




梓「そんな・・・。じゃあ、家族や、友達は、私の事、忘れてるの?」




忠兵衛「えぇ。そうなります。」





梓「な・・・なんでそんな冷静なの!?私は、そんなになるんだったら、来てなかったっ!」





忠兵衛「でしょうね・・・。だから、土方さんが、誘ったおなごは、皆、疑って来なかった・・・。甘いんですよ!こんな訳がわからない事に騙されて、信じてここまで来たのは、あなたです。全て、自己責任ですよ。」




私は、土方さんを睨んだ。





梓「土方さんは、知ってて、私を連れて来たの?」




土方さんは、私の視線を受け止めて、ゆっくり話し出した。




土方「いや。すまねぇ・・・。そこまで、知らなかった・・・。俺が死んだ場合、新選組は、無くなっていた・・・。それを回避するには、誰か、ここに来てくれる奴が、必要だった。あん時は、こんなの朝飯前だと思ったし、その後のおなごの事なんか興味無くて、どうなろうと知ったっこっちゃねぇって思ってたから、聞かなかった・・・。でも、どんなに俺を好いてるおなごもここに来たおなごはいなかった・・・。お前が・・・梓が、俺を救ったんだ。だから、俺は、お前を守るって決めてる。」



忠兵衛「ここにあなたが来たのは、運命と思いませんでしたか?来たからこそ、運命の人に会えた。違いますか?」





梓「っ!」




確かに、ここに来たから、沖田先輩に会えた。




土方「梓・・・。屯所に先に戻ってろ。この件は、黙ってろ。総司には、俺から話す。」




梓「はい・・・。」




私は、屯所に戻って、沖田先輩を探したが、どこにも居なかった。
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