沖田総司と運命の駄犬



部屋に戻ると、梓は、居なかった。




あぁ。井戸で、髪の毛洗ってるのか・・・。



梓は、毎日、洗わないと気持ち悪いと言い、銭湯に行けない日は、井戸の水にお湯を足して、髪を洗っている。



僕は、部屋に入り、座って、先ほどの土方さんとの会話を思い出す。




土方さんは、梓に本気だ。




あんな、おなごを骨抜きに出来る土方さんと対等に戦って勝てる訳がない。




でも、僕だって、悩みに、悩んで、梓を好いてるって、自覚したんだ。




渡したくない。




すると、いつの間にか、梓が、戻ってきていて、ソワソワしていた。




何で、あんなにソワソワしてるんだろう・・・。




あぁ。僕が、怒ったからか・・・。




梓は、僕の事、どう思ってるんだろうか?




土方さんに、なびいてたし、僕に、抱かれながら、土方さんの事を考えてたとか?




そんな事を考えていると、梓が、おずおずと、僕に、声をかけてきた。




梓「沖田先輩・・・。今日は、すみませんでした。」




僕は、一つ溜め息をこぼして、梓に訊ねた。




沖田「ねぇ。土方さんとさぁ、何してたの?」




梓「え?」




沖田「梓が、後ろから抱きしめて接吻しようとしてたよね?」





梓「違っ!」




梓は、その時の状況を詳しく話し出した。






でも、それって、やっぱり、接吻しようとしていたってことには、変わりない。




逃げれるのに、逃げなかったんだから。





でも・・・。




僕は、あの時の土方さんを思い出す。




男の僕でも、胸が、ときめいてしまったくらいだ。




おなごなら、土方さんの術にかかってもおかしくはない。




沖田「ふーん。まぁ、あの人の色気は、凄いらしいから気を付けなよ?おなごに凄くモテるし。」




梓「はい。」




梓は、素直に頷いた。




梓の口から、僕の事を好いてるともう一度、聞きたい。




沖田「梓ってさぁ、好いてる人とかいるの?」




梓「え?」




梓の顔がみるみるうちに、赤くなった。





あ・・・可愛いなぁ。




沖田「昨日の厭らしい声は、誰を想って出してたの?」




梓「いやっ!それはですね・・・。その・・・。」





口ごもる梓に、気になる事を、さり気なく入れて聞く。




沖田「土方さんの事を想ってたの?」




梓「違いますっ!」




沖田「じゃあ、誰を想ってたの?」




梓は、真っ赤になり、目を潤ませて、僕をしっかり見つめる。





沖田「ん?誰?」





梓「お、沖田先輩ですっ!」





好いてるって言ってよ。





沖田「なんで僕?」




梓「そ、それは・・・。す、好きだから・・・っ。」




沖田「本当に?」





こんな事を聞くなんて、僕も、余程、臆病になっている。





梓「はい!沖田先輩の事、す、す、好きです!」





沖田「もう一度、言って?どもらずに!」




梓「沖田先輩が好きです!」



僕は、嬉しくて、梓を抱きしめた。




梓「あ・・・。」




沖田「昨日、言ったでしょ?梓は、僕のだから、誰にも触れさせちゃダメだって・・・。」





僕は、梓の気持ちを聞けて、余裕が、やっと出た。



梓「え?それ・・・。夢じゃなかった?」




沖田「ぷっ!本当に面白かったよ?えっな夢見た!って慌ててるの。くくくっ。あははっ。」




梓「なっ!騙してたんですか!?」




沖田「勝手に一人で勘違いしてただけでしょ?」




梓「だって!厭らしい声出してたって・・・あ!」




梓が、僕の悪戯に気付き、僕の腕の中から飛び跳ね、離れて、真っ赤になっている。



沖田「夢だなんて、一言も言ってないし~♪それに、厭らしい声出してたのは本当でしょ?」





梓「酷いっ!」




沖田「本当にバカだなぁ。梓は!」




梓「っ!」




すると、梓は僕に背を向けて拗ねてしまった。




梓「もう、いいです!」





僕は、梓を背中から抱きしめて、耳元で囁いた。





沖田「梓は、バカで、すぐ人を信用して尻尾振ってついて行くし、言うこと聞かないし。ダメダメな駄犬だけど、そんなのを好き過ぎて、どうしようもない僕もバカなのかもね。」




梓「沖田先輩が、私の事、好き・・・?」




沖田「昨日も言ったよね?聞いてなかったの?」




梓「聞き逃して・・・。」




沖田「はぁ・・・。バカ!じゃあ、もう、言わない!」




梓「えぇ!?言って下さい!」




梓は、僕の方に、体の向きを変えて、目をキラキラさせて、僕の愛の言葉を待っている。





面と向かっては、恥ずかしいよ。




沖田「僕は、梓の事・・・。」




梓「はい!・・・っ!」




僕は、「好き」と、言う前に、梓の唇に自分のを重ねて、梓を、押し倒した。





僕が、どれだけ、君に夢中か、今から、教えるから受け取ってよ?




僕は、梓に僕の気持ちが届くように、自分の気持ちをぶつけた。





梓は、僕の名前を呼びながら、僕を好きと甘い声と共に何度も囁いていた。


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