沖田総司と運命の駄犬



今日は、特に、何もなく、このまま屯所へ、帰ろうとした時、向こう側から、誰かが、走ってきた。



沖田「あれは・・・。」





いつも僕が、行っている甘味処の女将だ。





僕に、気が付いた女将が、僕の胸に飛び込んできた。




沖田「どうしたんですか?誰かに襲われたとか?」




女将は首を振る。




女将「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。違うなら・・良いんだけど・・・。梓ちゃんは?」




梓?





女将「屯所に居るかい?さっき、向こうで、馬が、暴れてね、珍妙な着物を着たおなごが、踏んづけられてんだよ!顔が、梓ちゃんに似てたから・・・。」




珍妙な着物・・・。





昨日、土方さんが言ってた・・・。




来たときの服という召し物で帰ると・・・。




沖田「梓っ!」




僕は、考える間もなく走った。









人集りが出来ているが、数人の男が、馬をやっと押さえた所だった。





真ん中に見覚えのある人が倒れていた。





嘘だよ・・・。




嘘・・・だよね?





だって、梓は、帰ったんだから・・・。




ゆっくりと倒れてる人の前に行く。






早く駆け寄って、確認したい気持ちと、怖い気持ちで、足が動かない。





でも、僕の願いは呆気なく崩れた。





目の前まで行くと、倒れているその人は、ここに居るはずのない梓だった。





沖田「梓っ!」





僕は、駆け寄り、抱き寄せる。




ダラリと首と腕が落ちる。





沖田「い、医者をっ!」




僕は、梓を横に抱き上げて、診療所まで走った。






沖田「すみませんっ!馬に・・・っ。」





医者「すぐにここへ!」





物凄い騒ぎになっていたのか、医者は、すぐに、診てくれた。






しばらくすると、医者は、何も手を付けずに、こちらを見た。





医者「残念だが、もう死んでる。」





沖田「し・・・?」





死んでる?




何、言ってんだよ!







沖田「何を言ってるんですか!早く、手当てを・・・っ。」





医者「君も確認しなさい!もう、息をしていない!」




沖田「嘘だよ・・・。嘘だっ!」




僕は、刀を抜いた。





沖田「手当てをしろ!」





医者は首溜め息を一つ吐き、もう一度、道具で胸の音を聞く。





医者「こっちにきて、聞いてみろ。何も聞こえないから。」





僕は、医者が持つ器具に耳を当てた。






何も聞こえない・・・。





何も聞こえないよ・・・。






僕は、足の力が抜ける。





沖田「何も聞こえない・・・聞こえない・・・。」





医者「多分、肺の辺りを踏まれたんだろう。肋骨が、折れて、肺に刺さった。そして、頭も踏まれて首の骨も折れてる。即死だっただろう。」





沖田「そんな・・・。」





僕は、梓を抱き上げて、屯所に戻った。
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