沖田総司と運命の駄犬
これからは・・・。




気がつくと、私は、沖田先輩に抱かれていた。




え?




沖田先輩は立って、長蛇の列に並んでいる。





なんで?沖田先輩、立ってるし、顔色も良い。




梓「沖田先輩、どうして?」




沖田先輩は、私の頭を撫でながら笑った。




沖田「僕達、死んだみたいだよ?何も、梓も一緒に死ななくても良かったのに。でも、一緒に来てくれてありがとうね。」




私、死んでも猫のままか・・・。





そして、沖田先輩の順番になった。




役人「沖田 総司・・・。君は・・・。あぁ、人を殺しているね。」





そう言われると、沖田先輩は、笑いながら言う。




沖田「まぁ、武士ですからね。僕は地獄ですか?」




役人「まぁ、君の時代は、大目に見ている。生まれ変われるよ。」




沖田「そうですか。」




役人「で、こっちの猫・・・ん?」




沖田「出来れば一緒に連れて行きたいんですが。」




役人「お前、一度、生まれ変わってるな?」




え?そうなの?





役人「勝手に、禁忌を犯したか?」




きんき?




地方の?





犯すってどういう事?





すると、沖田先輩が、代わりに聞いてくれた。




沖田「禁忌って、どういう事ですか?」





役人「お前、元は人間。死んだはずなのに手続きされていない者・・・。寺井 梓か!」




沖田「え?寺井 梓って・・・。」




役人の男が、私の首根っこを掴んだ。




梓「嫌っ!」




私は、役人の人の手を引っ掻いた。




役人「お前っ!前世の記憶があるまま生まれ変わる事は、重罪だぞ!」





え?そうなの?





だって、知らない間に、そうなってたのに!





私が、沖田先輩の胸にしがみつくと、沖田先輩はギュッと私を抱きしめた。





沖田「どういう事か、わかりませんが、まぁ、梓が、何か、また、ヘマをやらかしたのは、わかりますが・・・僕の大事な人を易々(やすやす)とお渡し出来かねます。梓が、そんな大それた事を、やれるとは思えません。人違いじゃないですか?」




役人「そんな訳あるかっ!その猫を寄越しなさい!でないと、あなたもタダではすみませんよっ!」




沖田「梓は、人間でも、猫でも、僕の大事な人には変わりない!そんな人を渡せません!」




そう言うと、沖田先輩は、私を懐に入れた。




すると、騒いでいた私達の前に、男の人が来た。





役人「あ!上官!」




上官と呼ばれたその人は、ニッコリと笑う。




上官「梓、お前の生涯は面白かった。」




この声・・・あの道の時の声だ!




私が、沖田先輩の懐からひょっこりと顔を出した。





上官「おいで?梓。悪いようにはしない。」




沖田先輩は、私の頭をギュッと、懐に押し入れた。





沖田「そんな言葉、信じられませんっ!」





上官「はぁ・・・。」




その人が来溜め息をついて、シュシュと音が鳴ると、私の体はフワッと軽くなり光り出した。




梓「あ・・・。」





眩しくて、目を瞑ると、震えた沖田先輩のこえがした。




沖田「あ、梓っ!」




その瞬間、ガバッと抱きしめられた。




梓「え?」



ゆっくり目を開けると、沖田先輩の胸に顔を押しつけられていた。




でもいつもの感じではない。




背中に腕の力を感じる。





私も、沖田先輩の背中に、腕を回せる。





梓「沖田先輩っ!」




猫の鳴き声ではなく、私の声だ。





沖田「梓っ!会いたかったっ!酷いこと言ってごめん・・・っ。それなのに、猫になってまで、僕の所に・・・っ。」




上官「感動の再会はわかるが、後にしてくれるか?」





あ・・・。




私達は、赤くなりながら、離れた。




上官とその後ろに男が立っていた。




梓「忠兵衛さん!」




忠兵衛「どうも。」





上官「お前を戸惑わせたのは、俺だ。しかし、梓、お前はもう、生まれ変われん。あの時、お前は、その道を選んだ。だから、黄泉の国で、そこの男と暮らすが良い。」





役人「上官!」




上官「良い。わかったな?手続きをしてやれ。」




役人「はい・・・。」




役人は、渋々、手続きをしてくれた。








私達は、黄泉の国で、一軒家に一緒に暮らせることとなった。




沖田「梓・・・。なんでこれ、受け取ってくれなかったの?」




沖田先輩は、櫛を寂しそうに眺めた。




梓「ごめんなさい。私、それ見たことなくて・・・。」




沖田「そっか・・・。梓はすぐに猫に生まれ変わったんだっけ?」




梓「多分。」




沖田「じゃあ、もう一度、言う。」




梓「はい・・・。」




沖田先輩は、わたしの手を取った。





沖田「生前、本当に傷付けてごめん・・・。でも、僕は、梓以外のおなごは居ないと思ってる。駄犬だと思ってたのに、いつの間にか大切な人になってた・・・。僕の妻になって?これ、僕の時代では、求婚を意味するんだ。受け取ってくれる?」




そう言って、手渡された櫛には、犬と団子の絵が描いてあった。




梓「はい・・・。わ、私でよければ・・・っ。」




沖田「ありがとうね。幸せになろう。」




私達は、誓い抱き合いキスをした。






       完



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