Green Magic〜草食系ドクターの恋〜
「美味しいですね」
熊谷さんは、幸せそうに目を細めて味わっていた。
「半分持って帰ってくださいね」
「えっ、そんな悪いです・・・」
「いえ、構いませんよ」
そう、元々、半分持って帰ってもらうつもりで買ったのだから。
「ありがとうございます」
彼女は丁寧に頭を下げてくれた。
「そうそう、あと・・・」
僕は、再び席を立ち、本棚に向かった。10日ほど前に読み終えた本を手に取り、ソファに戻った。
「あっ、この本・・・」
「斎川サトシのタイムリミットです。最近ようやく読み終えたので、お貸ししますよ」
「うわぁ、嬉しいです。面白かったですか?」
「面白かったですよ。是非呼んで感想を聞かせてくださいね」
「わかりました」
ニンマリという表現が合いそうな表情を作り、彼女は快く了承してくれた。
今日で3回目の訪問だが、徐々に熊谷さんも馴れてくれているような気がした。
そして、僕はますます彼女に惹かれていた。
このあと、仕事の質問を受け、午後の診察が始まるまでには彼女は帰っていった。
会えるのはまた1ヶ月後だ。
待ち遠しい。
瞬からは食事に誘われるように言われたが、できなかった。
まだ、早い気もする。
いやどうしても、加奈の顔をちらつくんだ。
自分での無意識のうちに溜息をついていたようで、原さんに指摘された。
「せんせ~、もう熊谷さんに会いたくなったんですか?」
「えっ?」
今、そんなことは考えていなかったが、少しはそんな気持ちもあったので、驚いた。
不意打ちだったので、動揺してしまい、原さんに「やっぱり」と言われてしまった。
熊谷さんが来た日から、僕はこれからのことを考えていた。
瞬に言われたように、熊谷さんを食事に誘うことを決めた。
そして、それより前に、加奈とのことをきちんとしておこうと決めた。