最初で最後の、恋だった。







「…先輩……」

「望愛。別れて」

「先輩…」

「俺からのお願い」

「…ッ」




あたしは立ち上がった。




「俺のことなら心配しないで。
望愛が幸せになってくれることだけ、祈っているから」




先輩はそうして笑う。

あたしの大好きな…あの笑顔で。

優しい…どこか安心する、月の笑顔で。




「…先輩」

「輝飛」

「え?」

「最後に…そう呼んで?」

「…輝飛。
あたし、輝飛が好きでした」

「うん」

「輝飛と一緒にいられて、楽しかった」

「うん」

「初めてあたし、幸せだと思えたんです」

「うん」

「ありがとうございます…輝飛」




あたしは、

輝飛の家を出た。




こぼれる涙を、

拭いもせずに……。








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